ゲーム部にて 4
「第一村人発見よ!」
少し歩くと、家屋で見えなかっただけで村人の男が一人いた。
しかしなにもせず、ただ立っているだけ。なんか怖かった。
「怖い……」
「まばたきひとつしないではないの」
近づいてもこちらを見てくれないし、ただ一点をまばたきせずに見つめているだけ。
「……ノンプレイヤーキャラクター」
すると千春がそれっぽく呟く。
「コンピューターですね」
「トンチンカンな動きをするやつね」
それぐらい涼香も涼音も知っている。実際のゲームでも、イベントが無い限り話しかけられることは無い。基本はプレイヤーから話しかけなければならない。
画面上では気にならないが、実際ゲームの中で見ると奇妙というか怖い。
「話しかけます?」
「どうやって話しかければいいのよ」
「まあ見てなって」
どうしようと悩む涼香と涼音の肩を叩いた千春が、不敵な笑みを浮かべて前へ出る。
「すみません」
『おう、ここは辺境の村センロだ』
「「「…………………………………………」」」
現れたテキストを見て、三人は黙り込む。一応「おう」と男の声は聞こえたが、セリフは喋らないらしい。
「なんていうか、手間ですね」
「なんで線路なのかしら」
「フルボイスじゃないんだな」
もう一度話しかけて見るが、返ってくるのは同じ文言。特に情報も無い。
「次よ!」
そして村を練り歩き、話しかけるが、そもそも村人の数は少ないし、大したことは話さない。
「……家だな」
「ツボを割るのね‼」
「怖いなあ……」
外にいなければ中。とりあえずストーリーが動く会話イベントを探さなくてはならない。
そう思ったのだが――。
「なにも無いではないの……!」
どの家に入っても、誰に話しかけてもなにも無い。
物語の鍵になりそうな物すら無かった。
そしてツボを割ろうとしても、タンスを開けようとしても、涼音がいるせいか『王子たるもの、庶民の物品を取るなんて下賤な真似はできない』とテキストが現れてなにもできなかった。
試しに涼音が外に出ると、涼香と千春ぬ二人はツボを割ることができた。ちなみに涼香のせいで千春がダメージを受ける始末。
「意味不明だぜ」
三人は村の端っこで座り込んで作戦会議を開く。そして、涼音がそろそろと手を挙げる。
「はい、可愛い涼音」
指名された涼音が、二人に気づいたことを言う。
「そもそも、あたし達の家って無いですよね?」
「確かに、涼音ちゃんはまだしも、私と涼香の家が無い……つまり、これは――」
「ケチャップの中にタバスコ事件……」
「先輩マジで黙ってください」
「これは……」
「見なさい涼音、あっちに人がいっぱいいるわ」
「うわー、なんか鎧着てますよ」
「アレだ……」
涼香が気づいた方面から、銀色が反射している。よく見るとそれは人で、五人程の鎧を着た人がいた。
二人が観察していると、そのうちの一人が気づき、こちらに向かってきた。鎧を着てよく走れるな、と思っていると、その腰に提げられいる物を見て、二人は後ずさる。
「まずいわね、逃げるわよ」
「ですね」
「なんだっけ……」
「千春も行くわよ!」
まだ思い出せていない千春の背を叩き、逃げるように促す。ゲームの世界と解っているが感覚は本物。怖いものは怖い。鎧姿の剣を持った人間に追いかけられたら、大抵の人間は逃げると思う。




