ゲーム部にて
十月の三年生で、部活動をしている生徒はいない――はずなのだが、なぜか部活動をしている生徒がちらほら。そのどれもが、よく分からない部活だから別にいいのかもしれない。
メジャーな部――運動部。例えばバスケ部の若菜は夏で引退。そして文化部は、基本文化祭で引退だ。
それでも続けている部活というのは、部員が三年生しかいない部活。そもそも部費とか予算が出ているのか、顧問がいるのか。それすらも分からない。
そんな部活の一つに、涼香と涼音は来ていた。
「涼音を呼び出して、独り占めしようと思っているのだろうけど、お姉ちゃんが許さないわ!」
「誰がお姉ちゃんですか」
そんな涼香と涼音を呼び出したのは、暇人代表の千春だった。
「二人を呼び出したのは他でもない」
そう言いながら、一枚の紙を渡す。
詳しくは読めと言うことだろう。
「――ゲームをしろと言うことね」
「なんであたしらなんですか?」
涼香の言葉に頷き、涼音に言葉を返す。
「不意の事故ですーちゃんがゲームの世界に取り込まれてしまってね」
すーちゃんこと、高野すずらん。涼香達と同級生のゲーム部の部員である。部員というか部長。唯一の部員である。
「えぇ……」
「この前は腕にシューティングゲーム埋め込んでいたではないの……」
「あれは痒いらしいから取ったってさ。荒れるみたい」
ゲーム部の部室は縦に長い準備室程度の大きさ。そしてその部室の真ん中、部屋を半分にする位置に壁があり、片開きのドアがある。
「この先がゲーム世界になってるんだぜ」
千春は親指でクイっとドアを指す。
「ちなみに、どんな世界なんですか?」
「ロールプレイング」
「涼音が可愛のは変わりないわね」
「ラスボスが竜の王だか破壊神だか堕天使だか知らないけど、まあなんとかなると思うぜ」
そう言って千春はドアを開ける。
「ゲーム世界ではないではないの」
「そりゃあゲームですもんね。生身で行けるはずないじゃないですか」
「異世界に繋がるドアとか夢じゃん?」
ドアの先に広がる空間はなかなかに広く、体育館の半分ぐらいだらうか。その空間に白い球体の機械が六つ横並びになっていた。その中の一つは淡く光っていて、稼働中という文字が浮かんでいた。
とりあえず三人は他の機械に近づく。途中床を這う太いケーブルに躓いた涼香を支えながら。
涼香、涼音、千春の三人は、それぞれ機械の前に立つ。すると自動的に機械が動き出した。
白い表面に光が走り、上下左右に開いたのだ。
「涼音! カッコイイわよ!」
「めっちゃ凝ってるじゃないですか」
「おいおいおい、上がるじゃあないか」
機械の内部は、豪奢な一人がけの椅子になっていた。
座ってみるとふかふかで、一生座っていられそうな座り心地の良さ。
すると開いた部分が閉じ、球体の中に閉じ込められる。閉じると同時に、三人の周りに景色が現れる。
「あれ? なんで普通に立っているんですか?」
涼音は自分の置かれている状況に戸惑っている。
機械に入ったはずなのにこうして立っている。どういうことなのだろうかと。
「凄いでしょう? 触ってみなさい、感触は変わらないわよ」
「わっ、ほんとだ。えー、なんでですか、生身?」
近くに来た涼香が、自分の腕を涼音に触らせる。いつもの感触、視覚も聴覚も、嗅覚も変わらない。
「フルダイブ技術ってやつだぜ」
わちゃわちゃしている涼香と涼音に千春が告げる。
「フルダイブ技術……?」
聞き馴染みの無い言葉に、涼音は涼香の顔を見る。当然涼香が知っているはずもなく、照れたように頬を染めていた。
「簡単に言えば、五感を接続して仮想空間に入るってこと」
「おおー、なんか凄いですね」
なんとなく分かった。つまり凄い技術ということだ。
「ゲームの世界に入り込めるってことよ」
一応涼香が自分の理解している範囲で教えてくれた。
「えー、じゃあもうゲーム始まってるんですか?」
見渡したところ、ここは真っ白でなにも無い空間だ。
「いや、これから」
千春の言葉と同時に、三人の前にディスプレイが現れた。




