学校にて 10
「聞きなさい」
「捕まった……」
ある日のこと、涼香に捕まえられた菜々美。
「そうね、涼音ちゃんは可愛いわ。すっごく可愛い。でもまあ……ここねが一番だけど‼」
言われる前に言う。涼香の言うことなんて解りきっているのだ。
「あら、私の思考を読んだつもり? 少々甘いのではないの?」
「読むもなにも、顔面に書いているわよ」
「なんですって⁉」
そう驚いて、窓の反射で顔を確認する涼香。
「いや、それは実際に書いている訳じゃなくて、比喩表現よ?」
そんな涼香の姿に笑いそうになる菜々美。いつもやられてばかりなのだ、たまにはこうしてやり返すのもアリだ。
「少々甘いのではないの?」
しかし先程と同じ言葉を言って、涼香の顔が窓から菜々美へシフトする。
「………………………………なんで?」
そしてその涼香の美しい顔には――。
「なんで顔面に書いているの……?」
――涼音は可愛い。
そう書かれていた。教科書体で。
再び窓の反射で自分の顔を見る涼香。
「涼音への想いが顔に滲み出てしまったみたいね」
「えぇ……」
「涼音は可愛いのよ‼」
「くっ……⁉」
涼香の涼音を想う気持ちは本物だ。菜々美も、ここねへ向ける想いは涼香に負けていないと思っている。
涼香が顔に書くことができたのだ、自分だってここねへの気持ちを顔に書くことができるのではないかと、菜々美の闘争心が火災旋風を起こす。
「私だって負けていないわよ! はあああ……‼」
菜々美の赤毛が微かに逆立つ。空気が震え、校舎が揺れる。
そして徐々に、菜々美の顔に文字が浮かび上がる。
――ここねは可愛い。
ちなみにゴシック体だ。
その文字を完全なものにするため、更に気を溜める。
やがて――菜々美の周りにスパークが走り、顔に文字を書いた菜々美が涼香を向く。
「時間がかかってごめんなさい、まだこの変化に慣れていないのよ」
そう対峙する二人を、遠くからなんとも言えない表情で見ていた涼音とここねであった。




