家庭科室にて 番外編
「菜々美ちゃん。わたし、思ったんだ」
「どうしたの?」
ある日のこと、放課後の家庭科室にて。
「文化部って、文化祭が終われば引退だった――って……」
いつも通り家庭科部に来ていたここねと、それについてきた菜々美。
いつもの流れすぎてすっかり忘れていたが、家庭科部の部長であるここねは、この前の文化祭で引退したはずなのだ。
「確かに、私もすっかり忘れていたわ」
眉をハの字にするここねの頭を撫でながら菜々美が頷く。
「えへへ~」
「可愛い……ここね、可愛いわよ……!」
しかし、そんなことどうだっていい。ここねが可愛いからだ。
「まあ、わたし以外誰も来ないから別にいっかあ」
ここねが身体を菜々美に擦りつける。
「ええ、そうね」
家庭科部に部員はいるが、基本的に誰も来ないのである。だからこうして引退したはずのここねと、おまけの菜々美がいても咎める者はいない。
そんな誰も来ない家庭科室に、ここねと菜々美は二人っきり。
そしてこうも密着すると、甘い空気が漂うのは当然である。
「菜々美ちゃん……」
「ここね……」
全てを委ねる無防備な瞳で、ここねは菜々美を見る。それを受けた菜々美は顔を赤くして、優しくここねの顎に手を添える。
いつもなら、もう少しのタイミングで邪魔が入る。だから菜々美は、躊躇わず、すぐさまここねに唇を重ねようとする。
「ぶぇっくしょん!」
しかし、謎の鼻ムズムズが菜々美を襲い、耐えきれずにくしゃみをしてしまう。だがここねにかける訳にはいかないため、少し距離を取り、顔を背けた。
「来たわよ!」
「ああああああああああああああああああああああああっもう‼」
その瞬間開かれるドア。やって来た涼香と涼音。菜々美は泣きそうな顔で涼香を睨みつけるのだった。




