水原家にて 4
涼音はとりあえず、涼香と涼香の母の二人を連れてリビングまでやってきた。
タオルに巻いた保冷剤を椅子に座らせた二人に渡して、自分も椅子に座る。
「痛いわ……」
「私も痛いわよ」
目の前に並ぶ二人を見ながら、涼音は大きなため息をつく。
「ため息をつく涼音も可愛いわね」
涼香の母の顔と声で、涼香が発言する。
「それ程困らないわね」
涼香の顔と声で、涼香の母が発言する。
「なにが困らないの……」
涼香はいつも通りスルーでいい。だから涼音は涼香の母(体は涼香)に返す。
「私と涼香が入れ替わっても気づく人間はそうそういないでしょ? まあ、この子の同級生は別だけど」
二人の違いといえば、ホクロの位置と声の高さだろう。ぶっちゃけホクロなんてどうにでもなるし、声音だって涼香に知性が宿ったと考えれば問題無い。
「嫌だよ、気持ち悪い。早く戻って」
「そうは言っても……涼香の頭脳じゃあまり考えられないのよね」
「この体は凄いわよ。次々と言葉が溢れるのよ、涼音の可愛い所を一億個言えそうよ!」
「……この子に体を貸したら残念なことになりそうね、主に頭が」
「えぇ……」
「涼音の可愛い所! 言うわね!」
「うるさいですね」「黙りなさい」
「照れなくてもいいではないの」
この状況を楽しんでいる涼香をとりあえず黙らせ、涼音と涼香の母は考えるのだった。




