水原家にて 3
それは昨日の夜のこと――。
涼香の母は、涼香が落としたであろう靴下を持っていた。
いつもなら涼香が下に持ってきた時に渡すのだが、今日は暇なため、涼香の部屋へ持って行ってやろうと考えたのだ。
「靴下だけかと思ったけど、全部落としているじゃない」
リビングを出て廊下を見ると、まるでヘンゼルとグレーテルのように、洗濯物が落とされていた。正確には落としてしまったのだろう。
なぜ気づかないのか、なんて考えるだけ無駄である。涼香のドジは常軌を逸している。でもそれは仕方の無いことで、未来予知すら可能な程天才的な頭脳を持つ母と、その昔ドジで教室を爆破した、割ととんでもないドジっ子の父の娘なのだから。
そんな二人の娘の涼香なら、ドジで学校を爆破しても不思議ではない。
廊下に落ちている洗濯物を拾いながら歩き、階段までやってくる。
ちなみに、未来予知すら可能な程天才な頭脳を持つ涼香の母だが、涼香だけはどうしても読めない時がある。それは母として嬉しくもあり、少々心配な部分もある。今こうして、目の前に迫る娘の顔。自分と瓜二つの顔。ほくろの位置が違うだけの顔。
(流石涼香ね)
嬉しいけど、この後の痛みは嫌だな、なんて考える。まさか涼香が降りてくるなんて思わないではないか。
出会い頭の衝突。涼香が階段から転げ落ちて激突なら、救急車を呼ぶ羽目になっただろうが、ただ降りてきただけ。相当痛いが少し冷やせば大丈夫だろう――。
「ちょっと先ぱ――いぃ⁉」
とりあえず互いに衝撃で壁に当たり、そこそこの音がした。それを何事かと見に来た涼音の驚いた声がそれを上回る。
「ちょっ、大丈夫ですか?」
涼香の母はここで違和感を覚えた。涼音なら、まっさきに涼香を心配するはずだ。でも心配をされているのは自分。しかし涼音の口調は涼香に対するもの。
涼香の母は理解した。
「涼音ちゃん。入れ替わってるわ」
「あっ、ほんとだ。先輩! 大丈夫ですか!」
すぐにポイっとして、涼香(母の体)を心配する。
「涼音ちゃん。これは涼香の体よ」




