文化祭にて 87
「紗里ちゃん、ぶっれぶれだよ? 本当に大丈夫? 熱中症? それとも――あっ……」
紗里のスマホの画面を見ながら喋っていた若菜だったが、なにかに気づいた様子で顔を曇らせる。
写真がブレブレだったのは、手振れ補正でも補正しきれなかった紗里の震えのせいだ。その震えの要因を、若菜は知っている。なぜ早く気づかなかったのか。紗里は大丈夫と言っていたが、どう見ても大丈夫ではなかったではないか。
(紗里ちゃん……無理してたんだ……。だって様子がおかしいかったし、手も震えて……、無理してたんだ。多分私が大使館入ってる時間に、その時に無理して……)
「ごめん、気づけなくて……無理させて……」
(紗里ちゃんのことを知っているのは私だけなのに。その私が、なにも気づかないなんて……)
私のせいだと、再び自分を責めだした若菜。
「違うの‼ こっ、この震えは……‼」
若菜がなにを考えて曇らせているのは、その言動からも理解できる。
優しく右手を撫でてくれる若菜の破壊力は凄まじいが、今はそれどころでは無い。ただ、それを言ってしまうとどうなるのか、考えただけで恐ろしい。でも、いつかは伝えたい感情だ。自らの覚悟なんて後回しで、今、若菜に自分を責めさせるのを止めさせなければならない。
「これはただ緊張しているからなの‼」
一息に、目を閉じて、叫ぶように伝える。
無意識に握っていた若菜の手。それを握る手はやはり震えている。この大きな鼓動が聞えていないのが救いか。もしかすると、大きすぎて伝わっているのかもしれない。
「紗里ちゃん……」
いつもなら、伝わらないのだろうが、今は伝わった。紗里の必死さがそうさせるのだろう。紗里は噓をついていない、本当に緊張しているからなのだ。
(そっか……。そりゃ紗里ちゃん、写真撮るの慣れてないよね)
ただ、その結論に至る理由が合っているどうかは別だ。




