文化祭にて 82
「涼音、どこに行くの? すーずーね」
先を歩く涼音を追いかけながら言ってそうだが、実際には涼音の隣を歩きながら涼香が言う。
「文化祭ですよ。楽しむに決まってるじゃないですか」
「それはそうだけど質問に答えなさい!」
なぜかスンっとした涼音が、抑揚の無い声で言う。
涼音の中で、いったい今なにが起こっているのか――。
『無』だった。
文化祭テンションでの諸々に、涼音自身がショートしてしまったと言えばいいか。
今までこんなことは無かったため、涼香も困惑している。まあ涼香は困惑よりも涼音可愛いの方が大きい。要するにいつも通りだ。
そんな涼音と共に校舎内へ入り、色々と騒ぎを起こしながら様々な教室を回る。
縁日やお化け屋敷などよくある、しかしこれぞ文化祭、というものを回る。全て無表情でだ。
「涼音がお化け屋敷を怖がってないではないの……⁉」
驚いた涼香だったが、よく見れば涼音は、微かに目尻に涙を浮かべ、肩を震わせていた。
無であっても怖いものは怖いみたいだ。逆に無になったせいで怖いものを回避するということができなくなっているような気がしないでもない。
「可愛い……」
「早く、次行きますよ」
そうして、素早く文化祭を味わっていく二人であった。




