文化祭にて 81
「吸血鬼ってのはな……陽に弱いんだ……」
窓の外を見ながら千春が語りだす。
唐突な流れだったが、内容的には別に唐突でもない。神鳴の話だからだ。
「それはさっき聞いたから知ってるけど……?」
神鳴が吸血鬼の血を引いていることは、同級生なら知っている。でも天理と彩羽は、先程怪しい薬品部で神鳴から聞いて初めて知ったのだ。その補足のため、千春が語りだした。
こういう話は千春に任せる方が良いと、菜々美、ここね、千秋の三人はヨーロッパ部にある物を適当に使って暇つぶしをしていた。
「先輩達が言っている陽は、日光のことだと思うんですよ」
「違うんですか? 吸血鬼は日光を浴びると灰になってしまうものだと。ただ、物語によっては、日光が平気な吸血鬼もいましたが」
「違うんです。実は『陽』と読みます。太陽の陽です。陽とも読みますが、陽なんです」
「そうなんですか? 先程は陽と言ってましたが……?」
「あまり神鳴の前で長居すると良くないんで……」
「確かに、そうですね」
千春が微苦笑を浮かべると、天理も朗らかに笑う。
「そもそも吸血鬼の血筋が現実にいることに驚いた。本当なんだね」
「そうですね」
天理も彩羽も、神鳴の口から告げられた時はあっさり納得していたが、やはり気になっていたらしい。
それでも必要以上に驚かないのは、この学校が少々特殊なこともあるだろう。それは現在同級生で吸血鬼の血を引く者がいる千春達は当然で、この学校の卒業生である天理と彩羽もそうである。そもそも天理自身が特殊なのだ。
「世の中広いですもんね。で、話を戻しますね。『陽』で統一しまけど、その陽っていうのは、要するに陽キャの陽ですね」
「あー……陽キャねえ……」
「あとはキラキラした目とか。簡単に言うと天理さんを見る周りの目みたいな感じのです」
「なるほど、当事者なので理解できます」
陽キャと言う言葉を噛み締める彩羽に、手を合わせて納得を示す天理である。
「そんなキラキラしたもの、陽に弱いらしくて。それで吸血鬼の血を引いているんで綺麗なんですよね。神鳴も分厚い眼鏡かけてるし髪もボサボサだから分かりにくいんですけど、ちゃんとすれば菜々美ぐらいかな……、かなり美人になりますよ」
それでも吸血鬼成分は従姉妹の姉よりも弱い――そう補足する。
「陽が苦手なのに、綺麗で目立つ容姿になってしまうと。困った血ですね」
「なんか、悪いことしちゃったよね」
「元凶はあの二人ですから」
そう言って、菜々美とここねを指さす千春であった。




