文化祭にて 79
「涼香ちゃんと涼音ちゃんね」
「あっ、ほんとだ」
若菜と文化祭を回っていた紗里は息継ぎがてら、休んでいる涼香と涼音を目指す。
別に気配を消している訳ではないので、二人が近づくと涼香が気づいた。
「あら、委員長と若菜ではないの。見なさい、涼音が可愛いわよ」
「本当ね、可愛いわ」
「うん、可愛い〜」
目を閉じている涼音の顔を見て、三人は顔を綻ばせる。
「涼音の可愛さは万病に効くわよ」
「それは涼香ちゃんだけだと思う」
「否定はしないんだ……⁉」
「つまり涼音は私のものということよ」
やはり涼香は涼香だ。
あまりの変わらなさに紗里は息継ぎしに来て正解だと安堵する。
若菜と二人で回ることを望んでいた。そしてその望みが叶ったはいいが、緊張で上手く動けなかったのだ。午前中はなんの問題も無かったはずなのにだ。
「見なさい、若菜。絵画部で描いてもらったわ!」
そんなことを考えていると、涼香が若菜に紙を見せていた。
「おっ、いいじゃん。いやあ、芸術的だ」
「また宝物が増えてしまったわ」
誇らしげに胸を張る涼香を見て、紗里の頭脳は高速回転する。
(若菜との似顔絵が欲しいわ! でも嫌がられるかしら? いえ、若菜はそんなこと言わない。羨ましい、涼香ちゃん達が羨ましいわ! 私も若菜との唯一無二の宝物が欲しい! 誘う? 誘わなけれならないわよね? 待っていては駄目よ! 誘うのよ、ほら、簡単よ。流れはある! だから、言うのよ‼)
「二人も描いてもらえばいいではないの」
(流石涼香ちゃん‼ いいアシストよ! そうなのよ、描いてもらいたいのよ! 完全に流れがきているわ! 言うのよ私! 言うのよ‼ 勢いよ‼)
「いいわね」
紗里の覚悟を決めて発した言葉に、若菜が反応を返す。
「おっ、紗里ちゃんも興味あるの?」
「せっかくの文化祭なんだし、いいと思うのだけれど、若菜は嫌かしら?」
「全然! じゃあ行こうよ!」
その瞬間、紗里の勝利が確定した。
(やったわ‼ やった‼ やった‼ 若菜と二人の似顔絵を描いてもらえる‼)
今にもコークスクリューを決めたい紗里であったがなんとか堪えて、顔も緩んでしまわないように力を入れる。
「それじゃあ、絵画部へ行ってくるわ。涼香ちゃんも涼音ちゃんも楽しんで」
(早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く)
はやる気持ちが動きに出てしまわないよう、注意しながら歩く紗里であった。




