文化祭にて 74
五分後、息を切らしてやって来た翔を、紗里と若菜は労う。
そして労われながら、翔はこの後どうするべきかと思案する。なぜなら自分は、若菜が終わるまでの繋ぎにすぎないからだ。
この見た目に反して、面白くて可愛い先輩と若菜を二人にする。
「ごめんなさいね、はぐれてしまって」
「まあ、そういうことでいいっすけど」
はぐれたというか置いていかれたのだが、紗里の若菜への気持ちを知っている手前あまりツッコむのは良くないだろう。
それと同時に気がついた。別にさり気なく紗里と若菜を二人きりにせずとも、堂々と二人にすれば良いのだと。
その方が二人の仲は更に進展する可能性もある。まあ、若菜は超がつく程鈍感だから大したことにはならないだろうというのが本音だ。
「じゃっ、うちはこれで。あとは二人で仲睦まじく、デートでも〜」
手を振り、そそくさとその場から後ずさる翔である。
「ちょっ――ちょちょちょっっっと⁉ なにを言っているの⁉」
ものっ凄い慌てようの紗里と――。
「えー、一緒に回ればいいのにー」
特に気にしていない若菜である。
そうして二人の姿が見えない場所までやってきた翔。
「まぁ、これで良かったかな」
こんな乙女な仕草を自分でもできたんだと、自然と胸の前で手を組んでいた自分の姿を窓の反射で見ながら微苦笑を浮かべる翔。
――その笑みは、どことなく悲しそうでもあった。




