文化祭にて 73
時刻は十四時三十分。文化祭のシフトは大体どこも三分割であり、若菜はその真ん中のシフトだ。そしてこの時間、最後の交代で、若菜は自由の身になる。
客足が落ち着いているのもあり、時間ピッタリで交代できる。
「よっしゃー、あとよろしく〜」
そう言って交代した直後――。
「若菜じゃないの。せっかくだし一緒に回らない?」
「おおう、紗里ちゃん」
たまたまやって来た紗里が、若菜に声をかける。
そういえば、紗里と一緒に回ると言っていたような気がするが、若菜はいきなり紗里が現れたことで忘れてしまったし、紗里は緊張と文化祭テンションで覚えていなかった――というかわざと忘れていた。
(偶々若菜と出会ってしまったのよ。仕方がないのよ、決して若菜が終わるまで待っていた訳じゃない。約束なんてしていないわ、だって私はそんなに図々しくないもの。けれど、こうして若菜と会ってしまったのなら一緒に回らないという選択肢は無いわ!)
一人で言い訳のような念仏のような、心の中がうるさい紗里。他の若菜の同級生はなにかを察していたりいなかったり。
「うん! じゃあ一緒に回ろうよ――って翔は?」
忘れてしまったが、元々約束していたからか、あっさりと了承した若菜が、今まで紗里と共にいたであろう翔を探す。
「………………はぐれてしまったわね」
それから約五分、息を切らした翔がやって来るのであった。




