文化祭にて 67
そんな開いたドアから、いくつもの腕が伸び、涼香と涼音を引きずり込む。
そしてピシャリとドアが閉じ、涼香と涼音の前に一人の生徒が仁王立ちしていた。
「おっっっっっそい!」
「あら? あなただけなの?」
「なんか色んな人に掴まれた気がしたんですけど……?」
いくつもの手に掴まれた気がしたのだが、目の前にいるのは――というか、この絵画部の部室にいるのは、縮れ麺のような髪を持った生徒一人だけ。
「そりゃ引きずり込んでもらったからね」
涼音の言葉に滑らかに返す。
「え……?」
その言葉の意味の一端を理解た途端、顔を青くした涼音が閉まっているドアを叩く。
「なんで開かないの‼」
「いや、普通に開くからね」
「涼音、落ち着きなさい」
涼香がドアを引くと、すんなりとドアは開いた。
「えぇ……」
ちょっと涙目の涼音の頭を撫でて、涼香は再びドアを閉めて生徒に向き直る。
「全く、涼音に意地悪はやめてほしいわね」
「ただの事実だよ」
「だから顔の絵の具が取れないのよ」
「うるっっっっさいなぁ!」
そう言いながらも、その生徒の目は涼香の後ろに隠れる涼音に釘付けだった。
ぷるぷると少し震え、涼香を盾に、涼香の服の裾を握りしめる姿。とてつもなく可愛い。この世の可愛いの最上単位に成りうる程だ。
「あらその顔、涼音の可愛さを理解したわね。そうなのよ、あなたの思う通り、涼音は可愛いのよ!」
「可愛いのが悪い!」
「そう! 涼音が可愛いのがいけないの!」
「なんの話ししてるんですかぁ……」
奇妙な話のズレ方だ。涼音は怖がればいいのか、ツッコめば良いのか分からない。
「でも涼音は渡さないわよ!」
ぐるりと振り返った涼香が、涼音を抱きしめる。
なんかよく分からないし、人前でなにをしているのかと叩きたいが、怖いしよく分からない涼音は、大人しく抱きしめられるのだった。




