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百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常  作者: 坂餅


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823/929

文化祭にて 61

 そんな声がする方へ振り向く一同。


「わあ、天理(てんり)ちゃん」

「あら、知り合いなの?」


 反応を返したここねに、涼香(りょうか)が問いかける。


「あなたが水原(みずはら)涼香さんですね?」

「……、それはどうかしら」

「よく初対面の人にそんなことできますね⁉」


 しっかりとツッコミを入れる涼音(すずね)である。


 再び散らかりだした渡り廊下に、ギャラリーが増えてきだした。


 誰がこの場を纏めようか、そんなことを考えてる人すらいない。


「天理さん天理さん、あの子滅茶苦茶美人で、切れ長の目で、スレンダー……。王子が二人……?」

彩羽(いろは)さん?」

「いやいやいやいやいやいや、浮気じゃないよ?」


 高速で手を振る彩羽に詰め寄る天理に――。


「危うく爆発しそうだったわ……!」

菜々美(ななみ)ちゃん、天理ちゃんと彩羽さん来てるよ」

「えっ? あっ、ほんとね。おかげで爆発せずに済んだわ」


 爆発を免れた菜々美が安堵の息を吐き――。


「あの人の髪の毛凄いですね、なんか金に見えるんですけど、光の当たり具合で変わりますよ」

「そうね、でも私は涼音が可愛いと思うわ」

「なんで噛み合わないんですか?」


 いつも通りの涼香の相手をする涼音――。


 同じ場にいても、特に絡みは無く、誰もこの状況の片付けができないでいた。


 そんな六人を少し遠くから見ている人物が一人――正確にはそこには二人いるのだが、そこまで見えるのは一人だけなのだ。


「珍しいというか、必然なのかな、この組み合わせは」

「先輩、どうしたんすか?」

「見える? あそこの渡り廊下なのだけれど」


 紗里(さり)の指さした方を(しょう)は目を細めて見る。


「なんか輝いているのしか見えないっすね。なんとなくで涼香がいるのは分かるんすけどね、あと涼音ちゃんも」

「それだけ見えれば十分――ということで、行きましょうか」

「どこに⁉」

「渡り廊下によ。収拾がつかないわよ、あの流れ」

「更に混乱を招くだけっすよ……」

「確かに、私レベルの美人が三人集まれば騒ぎは更に大きくなるわね。……軽音部よりも人は集まるわよ」

「なんかうちと先輩も収拾がつかないっすよね……」


 そう言いながら、翔は時計を見る。そして気づいた。


 時刻はそろそろ二時になる頃、若菜(わかな)が交代する時間がもう近いのだ。だから紗里はそわそわして落ち着かないという訳だ。これも文化祭テンションだ。


「行きましょうか、渡り廊下。あっ、今回は置いてかないでくださいね」


 収拾がつかないのは、恐らく全員文化祭テンションだからだ。それならば、その文化祭テンションを抑えられるのは、文化祭テンションではいない自分だけだと、文化祭テンションの翔は考えた。


「解っているわよ」


 翔の言葉に微苦笑を返した紗里は、今度は翔を置いていかないように渡り廊下へ向かうのだった。

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