文化祭にて 61
そんな声がする方へ振り向く一同。
「わあ、天理ちゃん」
「あら、知り合いなの?」
反応を返したここねに、涼香が問いかける。
「あなたが水原涼香さんですね?」
「……、それはどうかしら」
「よく初対面の人にそんなことできますね⁉」
しっかりとツッコミを入れる涼音である。
再び散らかりだした渡り廊下に、ギャラリーが増えてきだした。
誰がこの場を纏めようか、そんなことを考えてる人すらいない。
「天理さん天理さん、あの子滅茶苦茶美人で、切れ長の目で、スレンダー……。王子が二人……?」
「彩羽さん?」
「いやいやいやいやいやいや、浮気じゃないよ?」
高速で手を振る彩羽に詰め寄る天理に――。
「危うく爆発しそうだったわ……!」
「菜々美ちゃん、天理ちゃんと彩羽さん来てるよ」
「えっ? あっ、ほんとね。おかげで爆発せずに済んだわ」
爆発を免れた菜々美が安堵の息を吐き――。
「あの人の髪の毛凄いですね、なんか金に見えるんですけど、光の当たり具合で変わりますよ」
「そうね、でも私は涼音が可愛いと思うわ」
「なんで噛み合わないんですか?」
いつも通りの涼香の相手をする涼音――。
同じ場にいても、特に絡みは無く、誰もこの状況の片付けができないでいた。
そんな六人を少し遠くから見ている人物が一人――正確にはそこには二人いるのだが、そこまで見えるのは一人だけなのだ。
「珍しいというか、必然なのかな、この組み合わせは」
「先輩、どうしたんすか?」
「見える? あそこの渡り廊下なのだけれど」
紗里の指さした方を翔は目を細めて見る。
「なんか輝いているのしか見えないっすね。なんとなくで涼香がいるのは分かるんすけどね、あと涼音ちゃんも」
「それだけ見えれば十分――ということで、行きましょうか」
「どこに⁉」
「渡り廊下によ。収拾がつかないわよ、あの流れ」
「更に混乱を招くだけっすよ……」
「確かに、私レベルの美人が三人集まれば騒ぎは更に大きくなるわね。……軽音部よりも人は集まるわよ」
「なんかうちと先輩も収拾がつかないっすよね……」
そう言いながら、翔は時計を見る。そして気づいた。
時刻はそろそろ二時になる頃、若菜が交代する時間がもう近いのだ。だから紗里はそわそわして落ち着かないという訳だ。これも文化祭テンションだ。
「行きましょうか、渡り廊下。あっ、今回は置いてかないでくださいね」
収拾がつかないのは、恐らく全員文化祭テンションだからだ。それならば、その文化祭テンションを抑えられるのは、文化祭テンションではいない自分だけだと、文化祭テンションの翔は考えた。
「解っているわよ」
翔の言葉に微苦笑を返した紗里は、今度は翔を置いていかないように渡り廊下へ向かうのだった。




