文化祭にて 55
怪しい薬品部とは、文字通り怪しい薬品を取り扱う部活である。
「嫌だ嫌だ……! なんで煌びやかな学校生活を送っている柏木さんと芹澤さんがこんな辺鄙な怪しい部活にぃぃぃ……!」
そんな怪しい部活動に部員が何人も所属しているはずもなく、所属しているのは平伏している白衣を着た生徒一名である。
「だって文化祭だし……」
「とりあえず顔を上げましょう?」
「自分に触らないでください! 綺麗な手が汚れちゃう!」
「でもずっと下向いたままじゃ――」
「せめて半径教室の端まで行って貰えると……!」
「えぇ……」
そう困惑はしつつも、菜々美はここねと教室の端――とりあえず対角線上の入口まで動いた。
そこでようやく、その生徒は顔を上げる。
分厚い眼鏡をかけ、洗ってはいるが整えられていないボサボサの髪をした生徒の、げっそりとした顔が見える。
天雷神鳴――菜々美達と同じ三年生である。
「わっ、神鳴ちゃんすっごくげっそりしてるよ!」
「キラキラに照らされて……!」
こんな地下に籠る生徒の前に、なんやかんやでかなりの美人の菜々美と、可愛いここねが現れたのだ。その強烈な輝きに、血筋的に日陰で生きたい神鳴が照らされればこうなる。
「私達どうすればいいの? とりあえず出る? 出たらいいの?」
そうやって教室から出ようとするが、対角線上の教室の隅では、神鳴が手を突っ張っている。待て、ということだろう。
神鳴は白衣のポケットから小瓶を取り出し、その中身を一気に飲み干した。
するとたちまちげっそりした顔が膨らみ、驚かれない顔に戻る。
それと同時に分厚い眼鏡が本領発揮し、瞳が見えなくなった。相変わらず髪の毛はボサボサのままだが。
「えぇ……」
そのあまりの変わり様に菜々美は困惑の声を出す。
「なにを飲んだの……?」
恐る恐るここねが神鳴に聞いてみる。
「怪しい薬品」
「えぇ……」
今度はここねが困惑するのだった。




