文化祭にて 54
「えー……っと、2X72年――なんで百の位だけエックスなんだろ……。世界は水没していた。富士山の標高が三千二百メートルぐらいになり、ハルカスが完全に沈み、スカイツリーが長めの電波柱になるぐらい――って解りにくいなあ!」
「涼音、続きを」
「自分で読んでください」
なんやかんやで劇中なので、と。
涼香は自分が受け取ったパンフレットを見る。今やっているこの劇のあらすじが書かれている。
「……なるほど、面白そうね」
「えぇ……」
胡乱気な目を向けてくる涼音の頭を撫でながら、舞台に集中する。
大筋は水没してしまった世界で進化した人間――人魚の生活の話らしい。人魚姫というのは、その人魚達の中、最も見目麗しく、最も性格が醜い人魚のことをいうらしい。
あまりの美しさへの嫉妬と、醜悪な性格へのムカつきで、人魚たちは人魚姫を海の藻屑にしてやろうと画策する――そんな話。
舞台上に留まらず、体育館全体を使ったワイヤーアクションが見どころだった。
「魚ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「魚ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そういう風に聞こえてしまう声を上げながら、空中で人魚姫と他の人魚が激しい打撃戦を繰り広げる。
「バトル系なんですね……」
「面白いではないの」
「まあ、シンプルで解りやすいですね」
あまり深く考えなくても楽しめる。とりあえず、半分は過ぎているということで、最後まで観ていくことにした二人であった。




