文化祭にて 49
「こうしてはいられないわね」
屋上でただ座っていた紗里が立ち上がり呟く。
「私は私のやることをしないと」
それは、涼香による混乱を防ぐための仕事だ。
「あっ、すいません。行きましょっか」
休憩していた翔が慌てて起き上がる。
「休んでいていいのよ? 私一人でも大丈夫だし」
「いやいや、そんな訳にはいかないっすよ」
別に紗里と共にいることを強要された訳ではない。ただ、面白そうだから一緒にいるだけだ。それに、紗里一人では、仕事の終わった若菜を誘えるかどうか分からない。
「翔ちゃん、あなたはあなたで楽しむべきなのよ? 最後の文化祭なのだし」
「先輩といるのが楽し――先輩が面白いんで楽しいんすよ」
「今の言い換え、必要無いと思うのだけれど?」
「だって可愛いっすから」
「そうじゃなく――」
「わかなんに伝えとくっすね!」
「なら仕方がないわ――」
それなら仕方がないかと、文化祭テンションだろうか、紗里は雑に納得しかける。
「どの部分を伝えるの?」
「さあ……?」
ニヤッと、翔は意地の悪い笑みを浮かべる。
翔が若菜にどの部分を伝えるかによって紗里の次の動きが変わる。
記憶を消すか放っておくか。
「消すわよ?」
スっと目を細め、手刀を構える。
「こっわ!」
涼香という自然災害ではなく、意志を持つ災厄、相手の機嫌ひとつでどうにでもされる。答えを違えば消されてしまう。そういう、涼香とはまた違う恐怖に翔は震える。
「いやいやいや、うちが死んだらわかなん悲しみますって!」
「殺さないわよ、記憶を消すだけ」
「あっ、なら安心か……」
「…………あなた達のその……妙な耐性は、一体なんなの……?」




