文化祭にて 44
気にしないと決意したが、やっぱりいきなり同学年や一年生の模擬店に行くのは違うような気がした涼音は、逃げるように三年生唯一の模擬店へやって来た。
お餅が微生物型のぜんざいを出す店、あまり人は来ていない。
「人、全然いませんね」
「微生物の形をしたおもちが入ったぜんざいなんて、誰も食べようとしないわよ」
「めっちゃまともなこと言うじゃないですか……」
店番をしている涼香の同級生は、まともなことを言っている涼香を恐ろしいものを見たような表情で見ていた。
とりあえずぜんざいを購入。見た目に目を瞑れば、ただの美味しいぜんざいだ。
話を聞いたところ、最初から人は来なかったらしく、若菜と共にやって来た紗里のおかげで直後はかなり売れていたらしい。でもそれも長くは続かず、今のように再び人は来なくなってしまったのだという。
「うわ、人いっぱいになりましたね」
「見た目で判断するのは良くないのよ」
ふっと笑った涼香である。
とりあえず腰を下ろせる場所まで二人移動する。やって来たのは花壇のある、少し広くなっていて、ベンチなどが置いてある憩いの場だった。
人の数もまばらだったが涼香が来たため、人が増え始めたがどうだっていい。
「ここなら落ち着けそうね」
二人でベンチに並んで紙コップに入ったぜんざいを食べる。涼香のことだから、どうせ餅を落として汁をぶちまけるだろう。
「先輩、小さくしてから――」
「見なさい。私のは全部小さいわ。これはミカヅキモね」
「……なるほど」
対策済みだった。
自分の役割を取られた気がした涼音は、微かに頬を膨らませる。
「不機嫌な涼音も可愛いわね。……なんで不機嫌なの?」
「別に不機嫌じゃないですよ」
いつもなら感謝している場面なのに、なぜ、今はこんな気持ちになってしまうのだろうか。思いつくのはただ一つ――。
「これが文化祭テンション……」




