文化祭にて 41
「ちーちゃん、買ってきたわよ」
「おっ、さんきゅー」
二本のジュースを持った千秋が、その中の一本を千春に渡す。
「結構攻めたやつじゃあないか……」
受け取ったコーンポタージュの缶を見て頬に汗が流れる千春に、青汁の入った缶を持った千秋が言う。
「青汁の方が良かったかしら?」
「苦いやつでしょ?」
「最後の一缶よ」
「買う人いるんだ」
そんな会話をして、廊下に出ようとした二人の背中に声がかかる。
「待て……」
背中にというか、言葉が地面を這って、木に登る蛇のように背中を登ってきたような感覚。
そしてそこに微かな殺気が含まれているのを感じて振り返る。
「ちーちゃん、離れてて」
「……今文化祭中だぜ?」
これからなにが起こるのか察した千春が言う。千秋は肩を竦め、声の主――真奈を見る。
「なによ、わたしは文化祭を楽しんでんのよ」
少し棘を立てて言葉を返す。真奈から声をかけられる時は、だいたい面倒事になる。
「その青汁、凛空が飲みたがっていた」
「あっそう。でも残念ね、ラスト一缶よ」
「なんで煽るのかなぁ……」
千春の呆れ声が響く。
千秋の煽りで殺気を抑えるのをやめた真奈。とりあえず人を避難させ、千春は教室のドアと『CLOSE』の看板を立てにきたこのクラスの同級生と共に自動販売機の裏に入る。
「青汁って在庫あるの?」
「あと一箱あるな」
「出せない……?」
「面白そうだし、まだいいかなって――そんな嫌そうな顔するなって」
とりあえず止める手立てはあるしなあ、とポジティブに考え、千春は睨み合う両者に声をかける。
「怪我しないようにね」
そして安全圏から二人の様子を見守るのだった。




