文化祭にて 40
「結局ロクに回れてないぃぃぃぃ!」
屋上で寝そべった涼音が叫ぶ。
「服が汚れるわよ」
涼香はそんな涼音を微笑ましそうに眺めながら言う。
涼香を掴んで身体を起こした涼音は唇を尖らせる。
「可愛いわね。委員長もそう思うでしょ?」
「まあ可愛いわね」
屋上には涼香と涼音、紗里の他にも人はいる。でも全員三年生のため、涼音は気にしない。
「全然回れませんよ」
「涼音ちゃん、もう気にしなければいいのよ」
「それはそうなんですけど――」
そこで占い部での自分の発言を思い出して顔を赤くする。
「見なさい! 可愛い涼音よ! あなた達! 見なさい!」
他の同級生に涼音の可愛さを見せつけるいつも通りの涼香。文化祭というイベント、ある意味特別な日にいつも通りのこと。
そもそも人混みが嫌いだし、イベントなんて面倒で涼香がいなければサボるつもりの涼音だ。でも、涼香がいて、今年が最後で、楽しみにしているのなら涼音も楽しみたい。
「いつも通りじゃないですか……」
いじける涼音が可愛すぎる。涼音の可愛さもいつも通りだ。
「私は楽しいわよ」
「……そですか」
涼音を可愛い可愛いしながら、涼香は優しい声音で言う。
「涼音がいれば毎日が特別よ。毎日が特別、それがいつも通りになっている。ワンランク上よ!」
「なに言ってるか分かりません」
そこで今で二人のやり取りを微笑ましげに、羨ましげに眺めていた紗里が単純な疑問を口にする。
「文化祭っぽいことってなにがあるの? それが解れば、どうにかしてあげたいのだけれど」
「そう言われると……なんなんでしょうかね?」
改めて考えるとあまり思いつかない。文化祭テンションで動いていたため、具体的なことを言えと言われると困ってしまう。
「いつも可愛い涼音の、いつもとは違う可愛さを見ることができるわ」
「――だそうです」
「涼音ちゃん……考えて」
軽く息を吐いた紗里の言葉に、涼音は少々頭を使って考えるのだった。




