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百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常  作者: 坂餅


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文化祭にて 33

 尾鳥彩羽(おとりいろは)――二十歳、彼女はこの、なぜか一学年に一人超絶美人がいる女子校の卒業生である。そんな彼女がなぜ、女子校に進学したか。その理由は、女子校の王子を一目見たいからだった。


 ただ、その願いは天理(てんり)との仲が縮むにつれて無くなっていった。共に時を過ごす程、篠原(しのはら)天理という存在が、彩羽の心を埋め尽くす。女子校の王子っぽいこともしてくれたりするため尚更だ。


 なので例に漏れず彩羽の頭は天理でいっぱい、よそ見などする間もない、常に天理に夢中なのだ。


 夢中のはずなのだが……。


「天理さん、王子喫茶だって」


 天理と二人でぶらぶら。在学中とは違い、今日一日自由に文化祭を楽しむことができる。


「でも、彩羽さんはコスプレの王子様は違うと言っていましたよね?」


 『王子喫茶』と書かれた看板を見ながら、天理はかつての彩羽との会話を思い出す。


 王子喫茶は二年生でやっているみたいだ。


「うん。あっ、だから言ってくれなかったの?」


 天理の記憶力は恐怖を感じてしまう程良く、実はこの文化祭の催し物全てを記憶している。四年前、彩羽と出会った日の彩羽の言葉も一言一句憶えているし、なんなら息継ぎのタイミングも憶えている。更に言えば、その日の朝食の内容、食べた時間まで覚えている。


 そんな記憶力を持つ天理が、彩羽にこの催し物の存在を言っていないのはなぜか。


「どうでしょう? もしかすると、王子様に彩羽さんを取られたくなかったからかもしれません」

「そんなそんな、わたしが天理さん以外の人を見ると思う?」


 そんなことを言いながらも、彩羽の足は王子喫茶のある二階へと向かっている。


「ちょぉぉぉっと、気になるだけだって」

「もうっ、仕方ないですね」


 天理も嫌がる素振りを見せず彩羽についていく。天理自身、興味が無い訳じゃないからだ。


 そうして二階へやってきて、とある教室前の人の多さに二人は立ち止まる。


「この人の集まりかた……」

「はい、言いたいことは解ります」


 天理の移動に伴い、更に二階にいる人の数は増え、その数は倍になる。


「王子喫茶だよね、この人の多さ」

「彩羽さん、戻りましょう」


 嫌な予感を覚えた天理は、人混みに向かう彩羽の腕を掴む。


「ちょっとだけ、ちょぉぉぉっとだけだから!」


 でも彩羽は止まってくれない。


「彩羽さん! 待ってください!」

「ごめん天理さん! でもどうしても‼」

「私じゃ満足できないんですか‼」


 そんな悲痛な声を上げる天理であった。

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