文化祭にて 32
「なんでいるんだ――いや、待てよ? あんた、本物の芹沢か?」
お化け屋敷の最後に現れたここね。現れたのはいいが、なぜお化け屋敷の最後に出てきたのだろうか? そこまで考え、彩は一つの仮説を立てた。
「彩ちゃん? どうしたの〜?」
「本物だよ?」
明里は信じきってきるし、ここねも本物だと答える。
「いや、どう考えてもおかしいだろ」
「普通に金券渡して入ったよ?」
「…………そうか」
そして遠くで、というか特別棟のある方から爆発音が轟いた。
「わっ、菜々美ちゃんが爆発しちゃった」
「あ、本物だわ、これ」
「彩ちゃん、疲れてるの〜?」
ここねが本物だということが分かったことで、三人はお化け屋敷から出る。
そして、彩と明里はここねからそれぞれクッキーを買う。
「ありがとう!」
半分底の見えた立ち売り箱を持って、ここねは人でごった返している王子喫茶方面へ向かうのだった。
その後ろ姿を見送りながら、明里は彩にさっきのことを蒸し返す。
「なんでここねちゃんが、偽物だって思ったの〜?」
「蒸し返すなよ……」
そう言いながら彩は自分の考えを明里に教える。
「今年の体育祭、この学校史上初めて『肝試し』を制覇しただろ? 芹沢が。何十年と、誰も制覇することができなかった『肝試し』、その内容は誰も知らない。まあ芹沢は一部柏木に聞いていただろうけど、話すだけで柏木はキツそうだったし、それを聞いた芹沢もキツそうだった」
そこまで話して、明里がなんの反応も返してくれないことに、背筋にうすら寒いものが走った気がして彩は黙る。そして隣を歩く明里を見る。
「どうしたの〜?」
「いや、なんでもない。続きだな。そんな『肝試し』を芹沢は制覇した。最初の部分は知っているだろうからまだしも、柏木から聞いていない後半も、芹沢は突破したったことだ。突破したってことは芹沢の怖さの耐性はかなりのもの、でもなにがあったか話したがらない」
そしてもう一度明里を見る。なにか返してくれと言いたげに。
「制覇たけど〜、怖くて話したくないんじゃないのかな〜?」
いつも通りの明里にホッとした彩はその言葉に返す。
「実際はそうだろうな。思い出すのも嫌で、記憶の奥底に押し込むか、記憶を消したいぐらいだろ。でもな、あたしは思ったんだよ。もしかして芹沢が入れ替わっていたらどうしよう、ってな」
自分で言って、身震いをする彩である。
「怪談でよく聞くやつだね〜」
対して明里はいつも通りのほほんとしている。
「だから、彩ちゃんはここねちゃんが本物か疑ったんだね〜」
それもここねの反応を見れば本物だと確信した。
もし怪異とここねが入れ替わっていたとしても、菜々美を爆発させるようなことを怪異がしようものなら本物のここねに消滅させられるだろうし、菜々美もここねの頭を撫でないだろう。
「……でもよく考えれば、なに言ってんだよって話だな。体育祭後も普通に柏木は爆発してたし、柏木も芹沢の頭を撫でていたし、芹沢の頭を巡って争いが起こってたりしたし」
「文化祭テンションだね〜」
恥ずかしそうに頬を染める彩の頬を指でつんつんする明里であった。




