文化祭にて 25
よく分からないが小綺麗にされた校舎裏のスペースで、三角座りをしている涼音の前では、涼香が演説よろしくなにかを熱く語っていた。
「――ということで、私は決めたわ。このクッキー、涼音と半分こにすると!」
「えー、あたし一人で食べたいです」
「そんな意地悪しないの。あーんしてあげるから半分こしましょう?」
「あーんしなくていいんで全部ください」
そんな涼音に恐ろしいものを見たような表情を向ける涼香である。
「冗談ですよ。あーんはマジでいらないんで半分こしましょう」
涼音もここねから買っていたのだが、この場所を教えてくれた千春にお礼として渡したのだ。
ここねから買ったこのクッキー、もちろんここねの手作りだ。そしてこの手作りクッキーはかなり美味しい。毎年買えている涼香も好んで買いに行く程。去年食べた涼音もまた食べたいと思う程。たまに家庭科室でここねがクッキーなど作ったお菓子をくれるのだが、そこで食べるクッキーとはまた違う美味しさがある。
「あーんさせなさい!」
「あたしがあーんしてあげますよ」
そんなクッキーをどうしてもあーんしたい涼香だったが、涼音があーんをしてくれるということで光の速さで口を開く。
しかし、この流れで涼音があーんをしてくれることなど、ここ数年あったことが無い。
「――だと思ったわよ‼ でも希望を持ちたいのよ‼ 昔のように、素直にあーんをしてくれる涼音を‼」
「うるさいですね」
悲しさに地面を叩く涼香。ただ、ここねのクッキーはこんな状態の涼香でさえも笑顔にしてしまう。
涙を拭いながら、涼香はクッキーを一つ食べる。
「やっぱり美味しいわね」
「ですよね!」
速乾仕様の肌なのか、涙跡すら残っていない。
涼香と涼音は、笑顔でクッキーを食べるのであった。




