文化祭にて 22
ここねから買ったクッキーを持ちながら、涼香と涼音は人がいないだろうとやって来た特別棟をじっとり見ていた。
「人多くないですか?」
「おかしいわね」
かつてこれ程までに人がいたことがあるか? という程の人の量。それに加え、涼香を追ってきた人の分も増えている。
「涼音の可愛さが広まってしまうわ」
「なんで嬉しそうなんですかね」
「当然ではないの。見なさ――むぐぅっ」
突然叫びだそうとした涼香の口を慌てて塞ぐ涼音である。
「とりあえず歩きますよ!」
ずりずりと、涼香の手を引き移動を始める。どこに行けばいいか分からないが動くしかない。
誰か助けて欲しいなと内心泣きそうになりながら涼音は歩く。とりあえず一度落ち着く時間が欲しい。一度落ち着けさえすれば、こんな人が多い中でも涼香と楽しむことができるはずだ。
「困っていそうじゃあないか」
そんな涼音に、救いの声が聞こえた。
「千春ではないの」
「なんでそんなに汚れてるんですか……?」
救いの目を向けたはいいが、ちょっと汚かったため涼香を盾にする涼音。
千春の制服は土で汚れていたり葉っぱが付いてたり、少しは払えよと言いたくなる汚さだ。
「事情があってな。まあそんなことはどうでもいいじゃあないか。人が少ない場所――いや、人がいない場所なら知ってるぜ☆」
その場に留まっていれば人が集まるため、とりあえず歩きながら三人は話している。
「屋上ですか?」
「屋上は結構人いるんだよなあ」
「えぇ……」
「秘密の地下室かしら?」
「私らはみんな知ってるから秘密じゃあないな」
「そんな場所あるんですか……?」
「涼音、二人だけの秘密よ?」
「なに言ってるんですか」
そんな会話をしながら、三人は特別棟の一階や三階を移動しながら奥を目指す。
「ていうか、さっきから上行ったり下行ったり、なにしてるんですか?」
人を撒こうととしてならあまり効果はないように思える。
それを言うと千春は、まあ慌てるな、と言いたげに手を振る。しかし頬にちょっと冷汗が流れているのを涼音は見逃さなかった。
「お腹が減ってきたわね」
「そういえばご飯食べてませんね」
相変わらずの涼香に返事をしたその時、どこかから爆発音が轟いた。
「あら、菜々美が爆発したのね」
「文化祭とか関係無いんですね」
涼香達は慣れているが、それ以外からすれば爆発が起きれば間違いなく騒ぎになる。案の定少し周りがざわつき始める。
「そういうことか……!」
なにがそういうことかは分からないが、千春はこれ幸いと涼香と涼音を連れて歩く速度を速めるのだった。




