文化祭にて 21
「うんしょっと――」
クッキーを限界まで乗せた立ち売り箱を持ち上げたここねは、行ってきますと言って家庭科室を出る。
((部長可愛い……))
家庭科部の部員はここねのように外で販売するか、家庭科室で販売するの二班に分かれている。どちらも客足は上々、家庭科室はもう間も無く売り切れて終了するだろう。
外での販売も、ここねが売り切れば終了だ。
家庭科室を出たここねは適当に、目標も無く歩く。
「ここね‼」
「菜々美ちゃん!」
そこへ息を切らした菜々美がやってくる。
「えへへ、今年も菜々美ちゃんが一番だよ」
朗らかに笑うここねの頭を撫で回しながら、菜々美はこの幸せを噛み締める。
家庭科部の移動販売はなぜか見つかりにくい。その中でもここねの見つかりにくさは歴代一位らしく、かなりの運を持っていなければ見つからないで有名で、見つけた生徒は幸運になるという言い伝えができる程。菜々美は運ではなく愛の力でここねを見つけているから関係無いが、毎年ここねがいないいないと話題になる。
「クッキー、一つ買いに来たわ」
「うん!」
ここねの頭を撫で終えた菜々美は金券を一枚渡す。それを受け取ったここねはラッピングされたクッキーを両手で持ち、目を閉じる、なにかを念じているような仕草だ。
「えいっ」
「ここね……⁉」
その仕草がなんなのか、それが解った菜々美は顔を真っ赤にする。
ちなみに、今は文化祭で、校内には生徒達だけでなく、来校者も結構いる。菜々美とここねは二人きりの甘い空間を創り出しているが、実際には周りにはそこそこ人がいる。要するに二人の甘いやり取りを見ている人は多い。
「はい! 愛情をいっぱい込めました‼」
クッキーを差し出しながらここねが言う。
そしてそれを受け取った菜々美は目に涙を浮かべている。
「ありがとう……‼」
この最上級で最高級で最大級の幸福を享受する。
「ありがとう……ありがとう……頑張って……愛してる……」
菜々美の意識が天に昇りながらそう言う。
「うん! じゃあ、これが終わったら一緒に回ろうね」
そんな菜々美に手を振って、ここねはその場を後にするのだった。




