文化祭にて 19
「ようやく、交代の時間ね」
涼香はネクタイを緩めて呟く。仕事終わりはこの仕草をするに限る。
今裏方では、涼香達午前組と交代するため、割と人でごった返している。
「わたし家庭科部行ってくるね」
「「私達も占い部行ってくるー」」
ここねや春と秋など、部活動でも催し物がある者はそそくさと出ていく。
涼香はそれを見送りながら、緩めたネクタイをどうしようかと悩む。緩めているだけだから、頑張れば元に戻せるだろうか?
「なにしてんの?」
そこへ午後からシフトの若菜がやってくる。
「ネクタイが上手く戻せないのよ」
「なんで緩めたの?」
「仕事終わりは緩めたくなるではないの」
「うん知らない。外せば?」
そう言って大きく息を吐く若菜。
「あら、元気が無いではないの」
その仕草に、いつもと違うものを感じた涼香が言う。機嫌が悪いということでは無い。ただ、落ち込んでいるというのが近い。
「え? あー……まあね」
歯切れが悪いが、なんでもないと誤魔化されるよりかは良い。
「まあいいわ。なにかあれば無理せずに休むのよ」
それならば、今の涼香にできることは無い。涼香は外したネクタイを若菜に投げ――上手く飛ばずに近くにいた理子の顔面に直撃。
「あら、ごめんなさい」
「えぇ……」
「下手くそー!」
「では私は涼音に会いに行くわ!」
そして逃げるように教室から出ていくのであった。




