文化祭にて 16
三人は校舎から出てきて、校門近くにやって来ていた。
「いい? いいの? ハグするわよ? いい? 本当に?」
「うん。うん。うん。大丈夫、えー待って緊張で汗が、臭わない? 大丈夫だよ、でもえー恥ずかしい……!」
「だだだだ大丈夫よ、それに私も汗が……おっ、お互い様ね」
「いいから、早くやりなさいよ」
緊張でおどおどカチコチの紗里と若菜にドジをやらかした涼香に向けるのと同じ目を向ける涼香の母。
せっかく紗里のためにこの状況を作ったのに、ここからなにもできなければ強引に違う策へ移行せざるを得ない。もちろん紗里はそれを理解しているはずだろうが、ヘタレすぎてどうしようもない。
「私のために、早くやりなさい。強制的に押すわよ」
そう断りを入れ、涼香の母は紗里の背中を押す。
「きゃっ――」
ここで、紗里の超高性能な脳がフル回転。
(いくしかない‼)
回転させるだけさせて使わなかった。
「にゃぇ⁉」
力強く抱きしめられたら若菜の体は固まる。
(いっ……いい匂い……‼ それにやっぱり、紗里ちゃんの体……柔らかい……)
勢いに任せて、全ての責任は涼香の母に押し付けるつもりで紗里は若菜を抱きしめる。
(待って、若菜の匂いがこんな近くで‼ やっぱりしっかりしているのね――駄目よ、変なことを考えては――引き締まっていて、でも弾力は――ああああああああ! 駄目よ、気持ち悪いじゃないの――このシャンプーの匂い――駄目駄目駄目駄目ぇ‼)
長い抱擁を交わしている隙に、涼香の母はさり気なくその場から離れる。当然、その場には三年生も何人かいた。
「こういうことだから、後は色々と任せたわ」
「分かりました‼」
その生徒達に隠されながら、涼香の母は学外に出ることができた。




