文化祭にて 15
「私のような超絶美人は、ただそこにいるだけで人目を引いてしまうの」
「紗里ちゃん……?」
クイッと眼鏡を直す紗里に、若菜は涼香を見るような目を向ける。
「でもね、そんな私レベルの美人が二人同時にいるとするわ。そうすると、単純に大衆の目は二分割されるのよ」
「若菜ちゃん、これは必要なことよ」
「えぇ……」
涼香の母は、戸惑いがちな若菜にこれはおかしなことではないと念を押す。
「この状況で、片方が人目に触れず動くにはどうすればいい?」
真剣な紗里の目に射抜かれた若菜は、これは大喜利ではないことを察する。
「……片方が目立つ?」
「その通り、流石若菜」
よく分からないが、褒められて悪い気はしない若菜である。
「つまり、私が校外に出るまで、あなた達二人には――主に宮木の子には目立ってもらわないと行けないの」
「そういうことなの。ねえ若菜、こういう時目立つためにどうすればいいのか、分かるでしょう? だって、答えはもう出ているのだから」
最後の最後でこっちに振るのかと、ツッコミたい気持ちを抑え、若菜は真剣に考える。今はふざける空気ではない。
紗里と涼香の母、二人の衆目を集める人物の片方を目立たせる。
その方法がもう既に出ているということだ。
若菜は涼香よりもは高性能なすーぱーこんぴゅーた並の処理速度で考える。
今この状況、紗里のセリフそれらを思い出す。
(待って……全然覚えてない……!)
思い出そうとしたが、そんな常日頃から考えて生きている訳でもない若菜には、たった一時間前後前の記憶なんて残っていない。
(目立つため? 紗里ちゃんを涼香のお母さんが霞むぐらい目立たせる? えぇ……)
「若菜?」
「あなた……」
涼香の母がなにか言いたげに紗里を見るが、紗里は全力で気づかないふりをする。
「あっ!」
そこでなにかひらめた若菜が手を叩く。
「別々に動けばいいんだ!」
「それだと意味が無いのよ……」
「え? あっ、そっか」
若菜の導き出した答えに膝をつく紗里。そんな紗里に生暖かい目を向けて肩を叩く涼香の母。
「ギブアップする?」
「私は若菜を信じます……」
「だって、若菜ちゃん。頑張って答えを導き出すのよ」
「えぇ……」
そう言われても、若菜にはもう思いつくことは無い。
「ヒントを……」
「ヒントならさっき言っていたでしょ。答えはもう出ているのよ」
「出ているって……」
それでもピンとこない若菜に、涼香の母は仕方がないわね、と涼香がすれば思わず蹴りたくなってしまう仕草をする。
「私の行動、涼香と涼音ちゃん」
その言葉を聞いて、再び若菜は頭をフル回転させる。考える。考える。今の自分は半年前までの自分とは違う。紗里に勉強を見てもらい、物事の考え方まで教えてもらったのだ。
(涼香と涼音ちゃん。涼香のお母さんの行動。出ている答え、紗里ちゃんを目立たせる……)
そのキーワードから導き出される答え――。
「紗里ちゃんが……私が抱きつく……?」
言葉にした瞬間、若菜は自分の身体がカッと熱くなるのが解った。
「正解よ。良かったわね」
「そそ、そういうことよ……仕方ないでしょう? そこまでしないと衆目を集めるられないのだから」
「いや解ってるけど……なんか、こう言葉にすると一気に恥ずかしさが……はっずかしい‼ 人に見られるんだよね? 涼音ちゃんの気持ちが解った気がする〜……」
「ごめんなさいね、無理にとは言わないわよ? 嫌なら嫌でも他に方法を考えればいいのだし、それにこれはパフォーマンスよ、大丈夫、なんか最後の方で演技でしたーみたいなことをすれば大丈夫よ! だから落ち着て、嫌なら断ってもいいから!」
「いやいやいやいや、嫌なんて! むしろ紗里ちゃんの方こそ嫌じゃないの? 私だよ? いや、目立つ? ほら、涼音ちゃんは可愛いし涼香も見た目はあんなだから目立つけど、私だよ? 紗里ちゃんに吊り合わないよ?」
「あなた達……大丈夫よ、その点は私が保証するわ」
このままでは話が進まない。そう思った涼香の母は強引に話を進めるのだった。




