文化祭にて 14
「――ということよ」
涼香の母から説明を聞いた若菜と紗里は、その説明に納得を示した。
「それで、お願いってなんですか?」
それよりも、その後のお願いの方が気になる。
「あなたには周りの気を引いてもらいたいのよ」
「えぇ……」
涼香の母の見た目はほぼ涼香だ。若菜達や涼音、紗里は間違えることは無いが、他の人間は間違えてしまう程だ。
だから来るときはいいが、帰る時に見られるとマズいことになるのだろう。
なんせ涼香は在校生なのだ。在校生の涼香が途中で学外に出るなどできない。
「涼香のためよ」
真面目な顔をして言う涼香の母。この人がなにも考えずに学校へ来るはずがない。帰る算段もつけているはずだ。そんな涼香の母が紗里にこうして頼んでいるということは、紗里が協力すれば、問題無く学外に出ることができるということだろう。
「分かりましたよ」
「紗里ちゃんどうするの?」
「そう言うと思ったわよ。安心して若菜ちゃん、策は三十程あるわ」
「その中で自分一人だけでどうにかなるものはないんですか……」
紗里のツッコミを髪を払って受け流す涼香の母。涼香とやっていることが同じだった。
「さて、いくわよ」
ただ、言わないだけで本当に三十程策はあるのだろう。その中でこの案を選んだのは、紗里にとってなにかしらのメリットがあるはずだからだ。あと単純に一番楽なのだろう。
「若菜、協力してもらっていい?」
「え、いいけど……私にできることってある?」
無心で若菜に協力を要請する紗里を助けるために涼香の母も若菜に言う。
「そうね、これからすることは全て演技よ、周りの気を引くためにしなければならないこと。若菜ちゃん、これは仕方のないこと、私のために仕方なく協力をしてくれないかしら」
そう言って、紗里に綺麗なウインクをする涼香の母。
嬉しいがそれはそれで複雑だと、なんともいえない気持ちになる紗里であった。




