文化祭にて 13
「紗里ちゃん、これ見て……! 紗里ちゃん?」
「――はっ、残りのぜんざいを食べるわ」
「いやもう食べたけど、それよりこれ見て」
「え、あ、そう? えっと、……これはどうなるの?」
若菜のスマホに表示されているのは、涼香を除いた三年生のチャットグループだ。そこに一人の生徒のメッセージがあった。
「涼香のお母さんが涼音ちゃんのクラスで涼音ちゃんに抱きついたって」
「犯罪?」
「いや、なんか涼香になりすましてるらしいよ」
「犯罪ね」
「まあ……。でもなんか放っておいたら面倒事起こるからだって。その後の涼香の動きは私達任せだけど」
若菜がやれやれと息を吐く。
「確かに、涼香ちゃんと涼音ちゃんの関係についての話がよく聞こえるわ」
「私には聞こえないなぁ」
「詳細は抱きついた本人に聞きましょうか」
「え?」
「若菜、走るわよ」
「ちょっと――」
「走るわよ!」
「いや――」
「行くわよ!」
「あ――」
「行くわ!」
「えぇ……」
紗里に群がる集団を水が流れるように走り抜ける。その紗里が抜けた後、陣形が崩れた隙間を若菜がバスケ部仕込みのフットワークで抜け出す。
「どこ行くんだろ……⁉」
まだ体力は衰えていない若菜は、視界から紗里が消えないように必死に追いかける。
やがて人の数は少なく、紗里を囲っていた集団はいなくなる。そして廊下を曲がった先で紗里が待っていた。
「もう、早い……‼」
「ごめんなさい、でもよく頑張ったわね。人が多いと話しにくいでしょ?」
「それはそうだけど……」
膝に手をついて荒い呼吸を繰り返す若菜に涼しい顔をして紗里が言う。
「涼香ちゃんのお母さんの視線を感じたのよ、間違いなく私を呼んでいるの」
「そんなことも分かるの?」
「分かるわよ。だって――」
「待っていたわ、宮木の子」
「おおう、本当だ」
紗里に言う通り現れた涼香の母を見て若菜が目を丸くする。
「お久しぶりです」
「久しぶりね、二人共。来てくれてありがとう」
そう言いながら、涼香の母はミニ缶サイズのジュースを二人に渡す。
「――さて、説明とお願いを言いましょうか」
二人が一息つくのを見て、涼香の母が口を開く。




