文化祭にて 12
「……なにやってるんですか?」
突如現れた涼香の母に、戸惑いながらも彩が問いかける。
「それはどちらのことを指しているのかしら?」
「どっちもですよ」
「そうねえ……」
涼香の母は考える素振りを見せ、やがて誇らしげに言う。
「娘の最後の文化祭は行きたいじゃないの」
「……」
本当にそうか? と訝しむ目を向けるが、涼香の母は動じない。
実際、それは嘘ではないだろう。行きたい気持ちは少なからずある。ただ、それはわざわざ仕事を半日休んでまですることなのだろうか?
「それに、このまま放っておくと面倒なことになるのよね。だからその不安因子を早めに取り除いたということよ」
「それがアイツの真似をして檜山に抱きついた理由ですか?」
「わざわざホクロまで描いてますもんね〜」
「そういうことよ」
その面倒なこととはなんなのか、気にならないと言ったら嘘になる。しかし、別に知ったところでどうにかできることでもないし、涼香の母が手を打ったと言うのなら、その面倒なことは起こらないはずだ。
「ということで、もう心配は無いはずよ。涼香がどう動くかだけは予測できないけど、まあなんとかなるでしょう。あなた達を信じているわ」
最後の最後に、重要なことを言い残し、涼香の母は窓の中に姿を消すのだった。
「「……………………」」
彩と明里は、涼香の母が消えた窓をしばらく眺める。そして最初に口を開いたのは彩だった。
「……どう動くんだろうな」
「ところ構わず涼音ちゃんに抱きつきに行きそうだよね〜」
「檜山が大変なんだよなあ……」
「情報共有しとこっかぁ」
「頼む」
明里が今あったことを涼香を抜いた三年生全員のグループチャットに共有する。
とりあえずはこれでいいだろう。
「じゃあ〜、たこ焼き、食べよ〜」




