文化祭にて 10
この日、彩の機嫌は悪かった。理由は一つ、夏美と共に文化祭を回れなかったからだ。
もう少し早く誘っていれば一緒に回れただろうに。シフトもチグハグ、夏美は同級生と回ると言う。
「あたし今日ずっとここでいいわ」
「あなたの時間まだでしょ」
「だから回る意味が無いからずっと中でいるって言ってるんだよ」
「そこまで性根が腐っているのね。不貞腐れてる暇があったら働きなさい!」
「だから働くって言ってるだろ!」
そんな感じで菜々美と言い合いの末、早めに自動販売機の中の人をすることになった。
仕事を初めて少々、自動販売機越しに見覚えしかない顔がやって来た。
『あっ、彩ちゃん。ここにいたんだ〜』
「なに?」
『彩ちゃんと一緒に回りたいなって思って〜。でもぉ、彩ちゃんいなかったからどこ行ったのかなぁって探してたの〜』
「あたし今日は一日中入ることにしたから」
『せっかく最後の文化祭なんだよお〜』
「ほら、明里の言う通り、回ってきなさい」
「はあ?」
そうは言いつつも、誘われたのなら行かない理由は無い。夏美と共に回れないことは誠に遺憾と言いたいが、文化祭を楽しみにしていたことには変わりない。
すると、金券投入口から一枚の紙が滑り込んできた。金券では無く、その紙には【彩ちゃんを呼ぶ券】と書かれていた。
「はい、行ってらっしゃい」
「はあ……仕方ない」
そうは言いつつも、眉間の皺は無くなり、本来の可愛らしい顔をしている彩である。




