文化祭にて 8
ここねのクラスまでやって来た天理と彩羽。
しかし教室の前は人でごった返しており、すぐに会いに行くなんてできない。
「思った通りですね」
事前にここねから聞いていた通り、この時間はここねのクラスで人が集まっている。
「何割か取れればいいんですが……」
そう言いながら、天理はその人が溢れかえる教室を覗こうと近づく。
天理を追ってやって来た集団も連れられ、涼香を人目見ようと集まる集団と合体する。
「うーわ、人凄い」
ここねのいるクラスに人が集まりすぎ、その他のクラスには人は疎らだ。
天理が戻ってくるまで、彩羽は隣のクラスを覗く。確か菜々美がいたはずだ。
「自動販売機かぁ……」
菜々美のクラスは自動販売機らしく、教室の半分が自動販売機(ダンボール製)に区切られている。
彩羽はポケットから金券を取りだし、自動販売機の前に立つ。
ちなみに金券は一枚百円、それの十枚セットで、彩羽と天理は、それを菜々美とここねから受け取っていた。
自動販売機のラインナップは、ミニ缶サイズが百円、五百ミリリットルのペットボトルが二百円となっている。
自動販売機の金券投入口(通常の自動販売機のお札入れるところ)に、金券を二枚入れる。
『うぃーん』
「手動なんだ……」
ゆっくりと金券が吸い込まれると『パチッ』と音がなり、ディスプレイが照らされる。
ちなみにディスプレイは透明で、反対側が見えている。
彩羽はどれを買おうかと手を動かし、その手の動きに合わせて、反対側のこのクラスの生徒達の頭が動いているのが見える。
「無難にお茶か」
ミニ缶サイズのお茶を連打。
ゴンっ、ゴンっ、と二連続でお茶が出てきた。
「おー、自販機だ」
それを取り出して教室から出る。菜々美の姿は見当たらなかった。別の自販機で仕事をしていたのだろう。
両手にお茶を持った彩羽が教室の外に頭を出すと、ずりずりと天理が人混みから抜け出そうとしていたところだった。
「なーにやってんの」
そんな天理の手にお茶を握らせ、腕を引いて受け止める。
「今の彩羽さん、王子様みたいですよ」
「そんなこと今はいいからっ!」
缶を頬に当てて、彩羽は歩き始める。
最初から天理を追ってきた集団に加え、涼香を人目見ようと集まった集団を三割連れて。




