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百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常  作者: 坂餅


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文化祭にて 4

 騒ぎになりすぎたせいで、早々に退店した佐藤陽菜(さとうひな)を送り出すと、店内は次第に落ち着きを取り戻していた。


 同じクラスの生徒曰く、同じクラスで慣れていると思っていたら、全然慣れなくて緊張した。こっちが王子のはずなのに、佐藤陽菜の方が王子様だった等、まあ似たような感想だった。


(王子らしいってなんだろ……)


 一人だけファミレス接客をしていると、いくら可愛い涼音(すずね)でも反感を買う可能性がある。


 とりあえず聞いてみると、佐藤陽菜みたいな、という返答。


(全くもって参考にならない)


 こんなことになるのなら、若菜(わかな)辺りにでも聞いて見ればよかったと、自分の甘さを自覚していると、再び騒がしくなった。


「えっ嘘……!」「なんでなんで⁉」「生で見るの初めてかも……」


 このリアクションはまさかとは思うが、考えてみると涼香(りょうか)は今シフトに入ってるはず。いくらなんでも途中で抜け出してここに来るとは思えない。しかしこの反応は……学年的に紗里(さり)が考えられる。それならと、涼音はやって来た希望の光を見ようとし――。


「可愛いわね、涼音ちゃん」

「ダニィ!?」


 その声を聞いて振り向いた涼音は、今日一番の王子らしい発言をする。


「王子が様になってるじゃないの」


 そこに現れたのは、パンツスーツに身を包んだ涼香の母だった。


「なん――」


 なんでと、叫びそうになったが、なんとか堪え、接客を始める。


 他の生徒は呆気にとられて動けず、何事も無いように接客している涼音が浮いている。


(なんで来たの⁉)

(涼音ちゃんを写真に撮ろうと思ってね。この後他を回ってすぐに仕事に行くわ)


 パシャリとスマホで写真を撮られた涼音。


(周りみんな先輩と勘違いしてるんだけど)

(似てるからしかたないわね。念の為泣きぼくろは描いてきたわよ)


 顔をよく見ると、涼香にはあって母には無い、左目尻の泣きぼくろが追加されていた。


(紛れ込む気満々じゃん……)

(フォローしようと思ったのよ。口説かれていたみたいだし)

(口説いてた?)

(同級生に無関心過ぎない? でも可哀想ねあの子、勝ち目が無いのに)

(なんの話してるの?)

(なんでもないわ。それより、私がここへ来たことによって、涼香と涼音ちゃんの関係性が完全にバレてしまったわね)

(うわぁ……)

(ということで――)


 涼香の母は涼音を抱きしめる。


 その瞬間、時間が動き出したかのように騒がしくなる。


 一部を除き、誰もが涼音を抱きしめる涼香を見ている。


「涼音はあげないわよ!」

(もうダメだ……おしまいだぁ……)

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