正気を保て‼ 6
「――暑かったわ」
「夏って怖いよね」
とりあえず暑さのせいにするとこに成功した紗里は、キンキンに冷えた水を飲みながら、溢れ出た冷や汗を拭う。
激しく打つ鼓動が緩やかになるのを待って、改めていう。
「一緒に……回らない……? その……ぶ……ん……か……祭」
舌が回らないのは口の中がキンキンに冷えたせいにする。
「えー? それは聞いてみないと分からないかも」
「あ……そうなの……」
今すぐ太陽に向かって叫びたい衝動を抑え、紗里はいつも通りを装う。
「違うよ⁉ 嫌って訳じゃなくてほら! 私って涼香対策班で結構な役職持ってるでしょ?」
「聞いたこと無いわよ……」
聞いたことないは無いが大体の意味は理解できる。
嫌だということではないということは知れて良かった。
ショックを安堵が上回った紗里だったが、そのおかげで少々不機嫌になってしまった。
――涼香ちゃんと私どっちが大切なの?
そう問い詰めたい気持ちだ。でも、それを言っても若菜は困惑するだろうし、なんらなら涼香と答えられるかもしれない。あとシンプルに迷惑だ。
「まあいいわ、考えておいて。さあ、勉強の続き始めましょうか」
ガサガサと、大量のテキストを若菜の目の前に積む。
「ちょっと待って、もう夕方だよ? こんな量――」
「泊まればいいのよ!」
「急に⁉ いやでも学校まで――」
「送るわよ‼」
「えぇ……」
紗里の暴挙の理由を、今の若菜が知ることは無い。




