正気を保て‼ 2
とりあえず白湯を飲ませて若菜を落ち着かせた紗里は、アンダーリムの眼鏡の位置を直しながら安堵する。
「うへへぇ……紗里ちゃんのポニーテールおもしろぉい……」
「正気に戻って……!」
落ち着いたと思われたが、まだ落ち着いていなかったらしく、若菜は猫のように紗里のポニーテールをペシペシしていた。
眉を八の字にした紗里は、その涼香に匹敵する美しい顔を赤く染めてされるがままだ。
なぜ赤くなるのかは単純で、紗里は若菜のことが大好きだからだ。どれぐらい好きかと言うと、いつでも同棲できる部屋数を確保した部屋を借りて一人暮らしをしているぐらいだ。
それぐらい若菜が好きな紗里だ。こうしてずっと猫のようにじゃれられると紗里自身も正気を保てなくなる。
ちなみに良くも悪くも、紗里の気持ちは若菜には伝わっていない。
「若菜、駄目」
「うぇっへっへっへっ」
止めるも満更でもない顔をする紗里。満更でも無い顔というか、喜んでいる。
正気を保つとかそれ以前の問題だ。
よく考えれば、別にこのままじゃれつかれても、今この場には紗里と若菜の二人しかいないのだから問題無いのではないか? なんの問題かはよく分からないが。
とりあえず、そんなこと考えてしまうぐらいには紗里の頭の中は絡まった糸のように訳が分からなくなっていた。
訳の分からぬノリで、若菜に『さあ来い』と両手を広げる。さすがに恥ずかしくて「おいで」とは言えなかった。
しかし、そうした途端に若菜の動きが止まる。
「……若菜?」
「紗里ちゃん……?」
若菜の目が、徐々に正気に戻ってきて、体の動きがぎこちなくなる。
まるで油の切れたロボットのようにギギギと動く。そしてそのまま洗面所へと歩いて行くのだった。




