正気を保て‼
受験生にとっては、気温が下がり、集中して勉強をできるようになるこの時期。
若菜はそんな日々過ごしやすくなる毎日をきちんと勉強に費やしていた。
しかし、若菜一人だけでは、いくら涼しくなってきたとて毎日勉強に集中できる訳なく、人の助けを借りなければできない。
「紗里ちゃ〜ん、わかんないよ〜」
情けない声を出す若菜が勉強をしているのは人の家だ。
「どこが解らないの?」
耳に心地良い声が聞こえる。静かで滑らかな、大きな声を出していないのだが、絶対に聞き逃さない声音だ。
「ここ……」
「ああ、ここ。これ簡単よ、ほら――こうすればいいでしょ?」
「おお! ほんとだ!」
「頑張っているわね、そろそろ休憩しましょうか」
躓いていた若菜に教えてから休憩を提案する。かれこれ三時間は勉強をしたままだ。
「やったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
三時間も勉強を続けて正気を保ち続けられる生徒など、若菜の通っている女子校では数える程しかいないだろう。もちろん若菜は正気を保ち続けられない。




