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百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常  作者: 坂餅


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彩られた天の下で 5

「――なるほど、そういうことですか」


 ラーメンを食べ終え、今は食後のアイスを咥えながら話している。


 菜々美(ななみ)とここねは、天理(てんり)彩羽(いろは)に今年の文化祭のこと、涼香(りょうか)のこと、そこで予測される被害規模を説明する。


 普段なら、涼香のことを外部に漏らすことはないのだが、相手はかつての学年に一人の超絶美人枠の天理なのだ。隠す必要も無い。


「懐かしいねー」

「ふふっ、そうですね。私と彩羽さんが出会ったのも文化祭でした」


 二人は甘いアイスではなく、かつての甘い記憶を思い出している様子だった。それを見た菜々美が顔を激辛ラーメンのような赤に染める。


「えー、そうなの? 天理ちゃん」

「ここちゃんには言っていませんでしたか?」

「初耳だよ」

「それなら、今話しましょうか? 彩羽さんったら――」

「わあああああああ待って待って! 天理さんストップ‼」

「ああぁあああああああぁああああああ!」

「なんで菜々美ちゃんも⁉」

「ふふっ、賑やかですね」

「そうだねぇ」


 その後赤い菜々美と彩羽をからかい、もう二十一時に差し掛かっているということでお開きになる。


 なかなか帰りたがらない菜々美をなんとか帰し、彩羽が自転車で先に帰る。


 残されたのはここねと天理だ。


 家が近いため、必然的に共に帰ることとなる。


「涼しくなってきましたね」

「うん。でもまたすぐ寒くなるんだなって思うけど」

「そうですね。でも、今のここちゃんには隣にいてくれる人がいるじゃないですか」

「寒い時は菜々美ちゃん暖房代わりになって暖かいよ」


 他愛もない話をしながら、歩くのに向いているこの気温を堪能する。


「頻繁に会っているのに、久しぶりに会った感じがします」

「えへへ、だってああしてご飯行くのほとんど無かったもん」

「そうですね、ここちゃんも菜々美さんも受験生ですもんね。早いものです。少し前まで、私は高校生、ここちゃんは中学生だと思っていましたが、気がつけば私は大学生、ここちゃんは高校生、しかも三年生ですよ」

「わたしも早いって思ってるよ。天理ちゃんが――」


 そこまで言って、ここねは口を閉じる。


 ここから先は、もう言うべきではない。言ったとしても変わらないし、変わる必要はない。笑い話にもしたくない。それに、あの時の感情はもう、必要無いものだ。


「私が、どうしたんですか?」

「ううん。天理ちゃんが助けてくれて良かったなって、もちろん彩羽さんも」

「私の方こそありがとうございます。なかなかありませんからね」

「うわぁ、悪い顔」

「楽しみですから」


 この美しくも悪い笑みを浮かべる天理を、彩羽は知っているのだろうか。


 悩むまでもない。当然知っているのだろう。


 ――ここねだけが知っている天理はもういない。それと同じで、天理だけが知っているここねはもういない。


 それでいい。今はもう、互いに一番の人がいるのだから。

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