変わるものと変わらないもの
「ふぁあ……おはよ……」
「おはよう。どしたん? また寝不足?」
「いんやぁ、足りてないだけ。最近朝晩涼しいから寝やすいからねぇ」
そんな同級生の会話を背中で聞きながら、彩は靴を履き替えて階段を上る。
二階で一度止まり、頭を振ってすぐに三階へと向かう。
今日も登校は一人だ。基本的に一人で、たまに時間が合えば夏美と共に登校していた。
今までなら気にしていなかったが、夏美への気持ちを露わにされてから、会えない時間は胸が締め付けられるようになった。
会おうと思えばすぐに会いに行けるのだが、そんな気持ちは栓をされたように出てこない。
ここ数ヶ月、今まで変わらなかった関係が変えられてしまった。それも悪い方向へ。
変えられないと思っていたけど、簡単に変わってしまう。
仲違いして変わった訳ではないのがせめてもの救いだった。
思わずため息をついた彩の背中に、ふわりと体重が乗り、のほほんとした声が漂う。
「おはよー彩ちゃん、朝からどうしたのー?」
「おはよ。別に、面倒だなって」
「そうなんだー。わたしは彩ちゃんに会えるから学校来るの楽しみだけどなー」
そう言って明里は彩の隣に立つ。
可愛い顔をしているのに日常的に眉間に皺を寄せている彩が、眉間に皺を寄せなくてもいい数少ない相手だ。
日常的に眉間に皺を寄せているのなら、デフォルトが眉間に皺を寄せていることになるのだがそれは違う。
「夏美ちゃんと上手くいってないのぉ?」
「いや上手くいってるもなにも――」
「わたしを選んだらいいのにぃ」
「朝からぶっ込んでくるなよ……」
肩を落とす彩に、うふふと笑った明里が軽やかに彩の行く先に立つ。
糸目から覗く瞳が、真正面から彩を射抜く。
「わたしは本気だもん。じゃあ、今日のお昼ご飯は夏美ちゃんと三人で食べよーねー」
そう言って、パタパタと教室へ入る明里を、その場に立ち尽くした彩は見送る。
「あら、綾瀬彩ではないの。早く入らないと可愛い涼音の写真を見せてあげないわよ」
「いや、クラス違うだろ」
そんな背後から聞こえる馬鹿の対応をしながら、コイツは変わらなくて安心するな、と不本意ながら思ってしまう彩であった。




