東西南北 春夏秋冬 肆
「はい……改めまして、一年生の北崎千夏ちゃんです」
「こんにちは! 北崎千夏です……!」
緊張でつっかえながらも元気よく挨拶をする千夏に千春、千秋、千冬の三人は半目で目を合わせる。
あれだけ泣いていた千夏が、なぜこうして緊張こそしているが元気良く挨拶をできているのか――。
(涼香って便利だね)
(普段迷惑かけられている分、こうして取り返さないといけないもの)
(涼香を使えば下級生に無理難題押し付けることもできるってことだね……)
((押し付ける気……?))
あの時、千春の提案――涼香に会わせてあげる。を使ったところ瞬く間に泣きやみ、なんならジャンプして喜んでいた千夏。
自分達にはその喜びは全く解らないが、下級生にとっては涼香に会えることは宝くじで十万円当てるのと同義なのかもしれない。
(この子ロクでもないわよ)
(千春のせいだ……)
(まあ……せっかく見つけたんだし……)
三人の心の内などいざ知らず、千夏は涼香に会えることをモチベーションにここにいた。
「はい、これで東西南北、春夏秋冬が揃いましたー……以上」
最初のテンションは何処へ、テンションの落ちた千春の乾いた拍手だけが響く。
黒板に書かれた『東西南北』『春夏秋冬』を見て、千秋はなにか引っかかった様子だった。
この違和感はなんだと。そして、最初の千春の言葉を思い出す。
「バランス悪いわね」
「おっ、気づいた? そうなんだよね……まあそれだけ、なんかもういいや」
「……そうね」「ボク帰っていい……?」
「待て待て、とりあえず千夏ちゃんを涼香に合わせてお開きにしようじゃあないか」
「みみみ水原先輩に会えるんですか⁉ ちょちょちょっと待って……心の準備が……」
「じゃあとりあえず呼ぶわよ」
待ったをかける千夏を無視して、涼香を呼び出す千秋であった。




