東西南北 春夏秋冬 参
「ききっ……北崎………千……夏……です……」
千秋の隣に追い込まれた千夏が噛みながらも自己紹介をした。
今にも泣きそうな顔をした、三つ編みをおさげにしている子だった。
「ねえ……帰してあげた方がいいんじゃない……? 可哀想だよ……」
千冬の言葉に千夏の顔は無人島に助けが来たような表情を浮かべる。
「だからさっさと済ませてよ」
しかしそれが助けではなく難破船だと気づいたような表情に変わる。
「二人とも私より酷いよね……」
千春は千秋と千秋に半目を向け、やれやれの動きをする。
二人とも、千夏を解放してあげたいが、千春の気が済むまで解放されないだろうと予想しての行動なのだ。ただそれを知らない千夏は、ただ単に引っ張り上げられては落とされを繰り返されているだけだと思っている。全ては千春が悪い。
「じゃあ改めて紹介しよう。東西南北、春夏秋冬、残りの一枠、一年生の北崎千夏ちゃんでーす!」
わーぱちぱち――と手を叩き、千春は黒板に『東西南北』と『春夏秋冬』の文字を書く。
「ついに見つけたんだよ……北と夏を……! まさに夏が来たってね!」
「うるさいわね」「やっぱり千春は黙った方がいいよ……」
「なんでわたしがぁ……帰りたいよぉ……」
「ほら、泣いちゃったじゃないの」「千春のせいだよ……。ほら、頭を下げて詫びないと」
「あーもうほら! 千夏ちゃん! お菓子あげるから!」
「うわ、ポケットからチョコ取り出したわよ」「ポケットにお菓子を入れること自体どうかと思うけど……チョコ入れるのは論外だよ……」
「溶げでるぅ……」
「あーごめんごめん、泣かないで! 怖かったねえ……ごめんね、三年三人に囲まれたら怖いよねえ、よしよし」
「ちょっと! 撫でる必要はないわよね‼」「なんでボク達も悪いみたいに――え……? 千秋……怒るのそこ……?」
「ごべんなざぁい」
「ああもう収拾がつかない! タイム! 一旦タイムぅ!」
めそめそ泣いてしまった一年生にあわあわする三年生三人の図がそこには出来上がっていた。
どうしてこんなことになったのだろうか。一番不思議に思っているのは千春だろう。
「どうざぎぜんばいのうぞづぎ……」
「えっ、嘘⁉」
「ちーちゃん! あなたなにしたのよ!」「ボク帰っていい……?」
「待って千冬! 協調性! 一旦落ち着こ? ね? 全員落ち着こ? 千秋もそんな顔で睨まないでっ」




