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東西南北 春夏秋冬 弐
「待って、北か夏ってどういうことよ?」
とりあえず千秋が待ったをかけ、その隙に千冬が教室の外へと向かう。
「おいおいおい、私の体はひとつしかないんだぜ。千秋ちょっと待ってて」
先に千冬の後を追った千春は、教室の外へ出て、数秒後、一人の女子生徒を連れて戻ってきた。
「やっぱりいたのね……」
「ごめん……無駄に強かった……」
苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる千秋に床を見つめる千冬である。
「紹介しましょう! 北崎千夏ちゃんです!」
バンっと紹介したはいいものの、その北崎千夏はオロオロした様子だった。
どこを見ればいいのか分からないのだろう、天井や床、自分の手を見てこの時が過ぎるのを待っている。
「とりあえず離してあげたら?」
さすがにこのままでは可哀想だなと思った千秋は自身の隣の席を軽く叩く。
千夏は、最初は救いが来たと顔を輝かせたが、千秋の動きを見た途端に表情が消え失せた。
なんとも申し訳ない気持ちになる千秋であった。




