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お出かけにて 5
「暑さでやられました?」
「そんな訳ないではないの。涼音には見えないのね、あの高くそびえ立つ高層ビルが」
「見える訳ないじゃないですか。なにも無いんですから」
「反抗期もここまでくると危ういわね」
「あたしは先輩の方が危ういと思ってます……」
そもそも高層ビルがあったとてどうにもならない。
昼が近づくにつれて気温は高くなるけれど、まだ屋内だからこうして呑気にいられる。
「ほんとに出ます?」
「昼食には早いし……どうしましょうか?」
「えぇ……」
投げ出した涼香に、結局自分が決めるのかと、涼音はあからさまに肩を落とす。
歩き回っても汗をかかない涼しい季節ならまだしも、少しでも歩けば汗をかいてしまうこの時期。
そんな中、なにがあるか分からない。そもそもなにもないのかもしれない場所を散策するのは得策とは思えない。
「あたしが決めていいんですか……?」
「当然よ!」
「じゃあ――」
涼音は改札を指さすのだった。




