休み時間にて 9
二つ離れたクラスの前を通る時、自然と私の視線は教室の中に向いてしまう。
荒れた大地に咲く大輪花を見るように。目を吸い込まれる。
――檜山涼音。私の通う学校で、一番可愛い生徒。
いつも一人でいて、人と関わっている所を見たことが無い人。……それは私が檜山さんを見る時間が少ないからかもしれないけど。
この休み時間の間、檜山さんはボーッと天井を見ていて、時折疲れたようにため息をつく。
なにかの悩みなのかな? でも檜山さんぐらいの可愛さだったら、付き合う人には苦労しない気がするんだけど。ううん、可愛すぎるから、モテすぎて疲れているのかな?
それとも今付き合っている人が忙しいとか、なかなか会えなくてやきもきしているとか……?
そもそも檜山さんって今だれかと付き合っているのかな? なんで私は、檜山さんに恋人がいる前提で物事を考えているのかな……。
そうやって私が自己嫌悪に陥っていると、檜山さん時折、スマホを見て困ったような表情をする。
そんな檜山さんが可愛くて、触れてみたいという欲求に駆られる。
「ごめんね、通してくれるかな?」
「あっ、すみませ――」
檜山さんに前意識を集中させていた私は、反射的に振り向いて、今起きている事象に息を詰まらせる。
――佐藤陽菜。物語の世界から飛び出してきた王子様みたいな、とても綺麗でカッコイイ人。
「大丈夫かい?」
優しい手つきで、私の顎にそっと手を伸ばして持ち上げてくれる。
私の下がった視線が持ち上げられ、佐藤さんのダイヤモンドみたいに固い意思を持った美しい瞳に吸い込まれる。
「あ……ふぁあ……」
檜山さんとは別ベクトルの目を奪われる存在を前にして、私の返事は情けない息を吐くだけになってしまった。
そんな珍妙な私を見ても、佐藤さんは微笑み返してくれる。
「大丈夫なら良かったよ。調子でも悪いのかと思ったんだ」
「いえいえ、滅相も無い! 私はただ――」
慌てて言い繕うとする私の言葉を遮って、佐藤さんが私の耳元で、私にだけ聴こえる声で言う。
「彼女を見ていたんだろう? 解るよ、彼女は誰でも虜にしてしまう」
そう言って私から離れた佐藤さんは、綺麗にウインクをして、人差し指を口の前に立てる。
そしてそのまま自分の席――檜山さんの隣に戻って行った。
そして、しばらく目を離しているうちに、檜山さんは机に突っ伏していた。
余程熟睡しているのかな、佐藤さんが話しかけてもまるで動かない。
やっぱり檜山さんってすごい……あの佐藤さんを夢中にさせるなんて……!
でも、なんで佐藤さんはあんなことを……?
もしかして、私が檜山さんのことが好きだと思って? いやいや、私なんて誰が見ても檜山さんと吊り合わないし、別にそういった感情持っていないし……。
そのはず……うん……。
どうしてか落ち込んでいく私の気持ち。それから逃げるように、私は踵を返して自分の教室に戻る。
そして檜山さんみたいに机に突っ伏して固く目を閉じるのだった。




