下校中にて 2
いい加減涼しくなれよと誰もが思う九月の中旬。まだまだそう思えることは希望を捨てていない証明である。
そんな希望を捨てきれない涼香は、じわじわ出てくる汗を拭いながらぼやく。
「あ〜つ〜い〜」
見る人が見れば、涼香は汗などかかずに常に涼しい表情をしているように見える。
錯覚なのかそういった魔法なのか知らないが、一部の人間にだけ涼香の暑さに苦しむ様子を見ることができている。
「もう今月いっぱいは暑いんじゃないんですか?」
「私は何時いかなる時も希望を捨てないわ!」
「なんですかそのキャラ……」
そう言って大気を睨みつける涼香である。
涼音はもうとっくの昔に諦めており、下敷きでパタパタ扇いでいる。
「そういえば先輩、今度の予定どうします?」
「行くわよ!」
「ですよねえ」
実は週末、久しぶりに二人で出かける予定を立てていたのだ。しかしこの暑さ、出かけたくないのが涼音の本音である。
週が始まってから、何度も延期にしようと涼香に言っているが涼香は聞いてくれない。
「なんでですかあ?」
「その時にもう一度行けばいいではないの。私は何度でも涼音とお出かけしたいのよ」
「それは……そうですけど……」
扇ぐ手を更に早める涼音はこれ以上なにも言うまいとそっぽを向く。
「だから暑くても行きましょう? 朝夕の気温はマシになっているのだし。あれならお母さんに車でも出してもらえるように言うわ。だからいいでしょ? ね? ね? 頷きなさい‼」
「どんだけ行きたいんですかっ……⁉ ああもう、分かりましたよ」
涼香の圧に屈した涼音は仕方なく頷くことにした。




