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下校中にて
「あの家、大きいわね」
「え? あ、はい。そですね」
ある日の帰宅中、いつも通っている住宅街の道を歩きながら、涼香が突如そんなことを言った。
軒を連ねる家を見ながら。毎日通っている道なのにいきなりどうしたのか。
それとなく涼音が聞いてみると、夕日に溶けそうな儚い微笑をたたえながら涼香が言う。
「少し、ゆっくりと街を見て歩くのも悪くないと思ったのよ」
「早く帰りますよ」
「ゆっくり歩くわよ!」
「えー、暑いじゃないですか」
涼音の反論に涼香は頬を膨らませて対抗する。
とりあえずまだまだ暑いこの時期にこの流れは暑くて面倒だ。素直に聞くことにする。
「人生、焦っても仕方ないわよ」
「なにに影響されたんですか……? いや、変な物でも食べました?」
「私にも、そういう気分の時はあるのよ」
「変な物を食べたくなる気分ですか?」
「どうしてそうなるのよ」
「流れ的に?」
そうやっていつものじゃれ合い。結局、周りの景色なんて見ずに家に帰って来た二人であった。




