休み時間にて 8
トイレから出てきた涼音は前に現れた人物を見るや否や再びトイレの中に戻ろうとした。
「檜山さん待ってぇぇぇぇぇぇ‼」
久しぶりに見た気がする夏美が涼音の腕を引っ張る。
「なんでいるの。てかもういなくなったと思ったんだけど」
抵抗しても雑草並みのしぶとさを発揮する夏美に諦めて、割と素直にトイレから出てきた。
「檜山さんひどい! 確かに夏休み明け以来会ってなかったけど! でも私は毎日檜山さんを見ていたよ」
「気持ち悪い……。で、なに?」
わざわざ自分を呼び止めたのだ。用が無いのならさっさと帰らせてほしい。
「特にないけど……」
「はあ?」
思いっきり顔を顰める涼音であった。
「あら――」
トイレに入ろうとした途端に背後から聞こえた声を彩は無視をして個室に入った。
それ以降声がせず、そのまま用を足して手を洗ってトイレから出ると――。
「綾瀬彩ではないの」
待ち構えていた涼香を無視して、彩は教室まで迷いなく歩き出す。
「待ちなさい。お話でもしようではないの」
そんな涼香を無視して教室まで帰ってきたが、涼香はまだついてきている。なんなら席に着いた彩の前に立っている。
とてつもなくうざい。
このまま無視をすれば、休み時間の終わりと共に帰ってくれるはずだ。
会話はしないが、これだけはしたかった。
彩は顔を上げて涼香を見る。
「ようやく見てくれたわね。全く……私の姿が見えないのかと思ったではないの」
そんな涼香の戯言には反応せず、思いっきり顔を顰めるのだった。




