下校中にて
まだまだ夏の暑さが残るといっても、九月も半ばに入れば朝夕の暑さはいくらか和らぐ。
「随分と過ごしやすくなったわね」
「まだ暑いですけど、昼間よりかはマシですよね」
そんな夕方の住宅街を、涼香と涼音は歩いていた。
今日もいつも通り帰る時間を遅らせ、人が少なくなった時を見計らって下校。
落ち着いた駅までの道、帰宅ラッシュ前の静謐な電車内、緩い日常が今日も終わりに近づいている。
「最近洗濯物をいっぱい畳んでいるのよ」
「ハマっちゃったんですね」
家事炊事部での体験が、涼香をまたひとつ上のステージへと昇らせた。
得意げにそう言う涼香を、穏やかな笑みを浮かべた涼音が見る。
誰にも邪魔されない、二人だけの時間。夏休みという二人っきりの時間が終わり、学校が始まれば四六時中涼香と居られないというのは、今までの経験上慣れているけど、それでも四六時中一緒に居たのが無くなると、物足りなくなってしまう。
だから、こういう二人っきりの時間は大切にしたい。
涼音は隣を歩く涼香に軽くぶつかる。
「可愛いわね。どうしたのよ」
「先輩が安全にできる家事を身につけてくれて嬉しいなって」
「私は天才よ、その気になればなんでもできるわ」
「はいはい」
そんななんてことの無い会話をしながら家までの道を歩く。家が近づいてくるのにつれ、徐々に涼音の中で、常に抱いている気持ちが大きくなる。
大きくなるというか、それ以外の気持ちが、今は無くなっているため、その気持ちだけが浮き彫りになるというのに近い。
――まだ一緒にいたい。
幸いにも家は斜向かい。
別にしょっちゅう互いの家に泊まっているから、無理に分かれる必要は無いけれど、メリハリを保つために平日はそれぞれの家で過ごしている。
「先輩、今日はうち来ません? どうせ暇ですよね?」
「そうね、すぐ行くわ」
「やった」
「ふふっ、可愛いわね」
だから、日が沈み切るまで、一緒にいたい。
二人だけの日常が、まだ足りないから。




