水原家にて
夏休みが終わり、二学期に入っても、九月になっても――暑い‼
気温は徐々に低下していくどころか据え置き価格。涼しくなる気配は無い。
「あ〜つ〜い〜」
「出かけられないわね」
たとえ冷房が効いている部屋にいたとしても、全国の気温予報を見ると暑くなるのだ。
「もうすぐ台風ができるわよ」
そんな水原家で、涼香の母が優雅に紅茶を飲みながら言う。
もう四十は過ぎているのに、制服を着れば一、二年生は簡単に欺けるであろう涼香の母に涼音は胡乱げな目を向ける。
娘と違い、母は未来予知でもできるのかという程頭が良い。だからこれも、涼香が言えばただの妄言だが、涼香の母が言うのなら本当なのだろう。
「そんな目をしても台風は消えてくれないわよ」
「涼音、私にもその可愛い目を向けなさい」
涼香をひと睨みし、涼音は突っ伏す。
「今年は休校になるような台風は来ないわ」
それはすなわち、雨風の強い中歩かなければならないということだ。
「めんどくさーい……」
「気温が下がっていいじゃないの」
それはいいのだが、濡れるのが嫌だ。それにあまり風が強いと傘をさせなくなり、濡れる範囲は全身になる。
涼音はこれから来る面倒さに起きる気力を無くす。
「それはそうと、今日も涼音は可愛いわね」
それはそうと、涼音は今日も可愛いのだった。




