家庭科室にて 10
もう話は終わったかな、と家庭科室まで戻って来た涼香とここねは、家庭科室の入口に立つ生徒の姿を認めるて足を止める。
そして涼香が声を出そうとする前に二人に気づいたその生徒は、涼香とここねが瞬きをしたと同時に距離を詰めて涼香の口を抑えた。
それでもお構いなしに声を出そうとする涼香を地獄から這い上がって来た亡者のような目で睨みつける。
「真奈ちゃん、どうしたの?」
涼香の口を塞いだままの真奈が答える。
「加賀野と時雨が話をしている」
「あっ、まだ続いていたんだ」
「深刻な話だった。時雨はワタシと似ている部分がある。どうにか力になりたい」
いつも凛空のことしか考えていないし見ようともしない、というか常に視界に凛空を入れようとしているし、とにかく行動原理の全てが凛空のための真奈が他人のことを心配しているなんて誰が考えられるだろうか。
でも、自分達が見ている真奈の姿などほんのひと部分なのだろう。ここねは特にそれに関してはなにも言わずに頷いて、家庭科室のドアを開ける。
「話は聞かせてもらったよ。真奈ちゃんが」
俯いていた奏と音が、震えながら顔を上げる。
「あ……」
その深刻な雰囲気に、ふざけている場合ではないと、ここねの鼓動が早くなる。
「二人の悩み、ワタシなら解決できる」
「わたしも、聞いていいかな?」
涙を流しながら、奏は首を縦にふる。音の動きも同じだった。ただ、二人は説明できる雰囲気ではない。だから断りを入れた真奈が説明を始める。
ちなみに、涼香の口は塞がれたままであった。




